久しぶりに映画でも観ようと思って、レンタルショップで友達に勧められた洋画を借りてきたのだ。ところが、家に帰ってデッキのスイッチを入れてみたら、どうしてかうんともすんとも言わない。壊れている。
そこで思い出したのが国近だった。ゲームが趣味の国近は、太刀川隊のオペレーター室にたくさんのゲーム機を持ち込んでいる。最近のゲーム機は多機能で、本来の用途以外にもいろいろと使えるのだ。
映画観たいからゲーム機貸して、と国近に頼めば、普段の少し間延びした口調で、彼女はいいよ~と答えた。今日は隊の任務がないから、好きに使って、と言われ、あきらは早速ここにやってきたのである。
ラックに並ぶゲーム機、その中の一つを普段は戦闘に使われるモニターに繋いで、あきらは一人掛けのソファに腰掛けた。適度に柔らかいそれはあきらの体をちょうどよく受け止め、ほんの少しだけ跳ね返す。
「えーと、これを……こうか」
わからないなりに操作を進め、なんとか映画は始まった。あきらは持ち込んだオレンジジュースを飲みながら、それに集中する。
画面の中のヒロインが、ハンサムなヒーローと運命的な出会いをし、けれど彼には秘密があって──よくありそうなストーリーではあったが、役者の演技がよかったし、音楽もぴったりで、あきらはあっという間に物語の中に入り込んでいった。
人の目をかいくぐり、こっそりとやってきた恋人を、ヒロインは自分の部屋に入れる。愛おしげに見つめ合い、顔を寄せて──
「うわー……」
「さすが外国は熱烈っすねー」
「そうだね、って、はあ!?」
突然頭上から声が聞こえてきて、あきらはびくっと上を見上げた。ソファーの背もたれの上に、何故か後輩であるところの出水が腕をのせ、あきらを見下ろしている。「あきらさん驚きすぎ」とからから笑われ、あきらが何か言い返そうとぱかっと口を開く。しかし。
「ちゃんと見ないと。内容わかんなくなりますよ」
いいタイミングだった。喚く気を削がれたあきらは、ふてくされながら正面に視線を戻す。
向き直ったモニターでは、ちょうどベッドシーンが始まっていて、あきらが思わず吹き出した。一人で見る分にはこれくらいどうということはないけれど、後ろには今出水がいるのである。気まずい。一家団欒の食卓のテレビで、えげつない下ネタが流れたときのようないたたまれなさである。
「ね、ねえ」せめて意識を逸らそうと、あきらは出水に話しかけた。
「なんすか?」
「今日、非番でしょ。なんでいるの」
「昨日ノート忘れちゃったんで、取りに来ました。あきらさんこそなんでいんの?」
「私は……」
家のデッキが壊れて国近にゲーム機を借りました、と言う、その間にも、画面の中では濃厚なベッドシーンが繰り広げられている。あきらはこの映画を薦めてくれた友人を、理不尽にちょっと恨んだ。
「……」
濡れて闇に光る主役二人の唇が、くっついては離れ、離れてはくっついている。あきらがこんなに慌てているというのに出水はどこ吹く風で、平然と画面を見ていた。
「あきらさんあきらさん」
「……なに」
「キスってどんな感じですかね?」
「はあ?」
いきなり聞いてきたと思ったら、出水がすっとあきらの横に移動する。体をかがめて、あきらに顔を寄せる。整った顔が近づいて、あきらは驚いてできる限り身を引いた。出水はちょっと笑うと、更に近づいて、あきらの頬に手を伸ばす。
「──あきらさん、教えて」
状況が不可解すぎてあきらの頭はうまく働かず、体が動かない。彼女がかろうじてできたのは、ぎゅっと目を瞑る、それだけで、その直後、唇に柔らかいものが触れた。
すっと顔が少し遠のく気配がして、あきらは目を開けた。まだ近くにある出水の顔を睨みつける。出水はぺろりと薄い唇をなめて、納得したようなわざとらしい声を出した。
「なるほど、こんな感じかー」
「……出水」
「もう一回」
「出水」
「なに、あきらさん」
「あんた、知ってるでしょ、フツーに」
「ええ?」
出水がとぼけて、頬に添えていた手をするりと滑らせ──顎を支えた。その仕草は手慣れていて、とても教えてくれと言う人間のものとは思えない。
「キスもキス以上も、全部教えて。あきらさん──」
もう一度出水の顔が近づいてくる。どっちかというと私が教えて貰うことにならないかとか、なんでこんなことになったんだとか、いろいろ思うところはあったものの。結局拒否はできずに、もう一度ぎゅっと、あきらは目を瞑った。