ほい、と投げられたのは暖かいココアの缶である。おっかなびっくり両手でそれを受け取って、千佳は大きな目を瞬かせた。
ガコン、と続けて智が自分の飲み物を買った。取り出し口に手をやると、缶を取り出して開ける。
「のまねえの。ココア嫌いだったか?」
首を傾げて問われ、千佳は慌てて缶を開けた。こく、と飲めば暖かさが染み渡る。
「うまいか」
「は、はい。おいしいです」
四つ年上の智は玉狛支部の先輩だった。ポジションはスナイパー。直接の師匠というわけではないが、時々アドバイスなんかをくれたりはする。今日は木崎のかわりに入隊式についてきてくれて──
千佳の脳裏に自分がもたらした光景が蘇った。大笑いしていた智の顔もついでに思い出す。
「……昼は悪かったな」
ぽつりと智が言う。千佳はぶんぶんと首を横に振った。智が少し目を見開く。
確かにアイビスを差し出したのは智だった。
あの帽子の人も、他のみんなも智のことをなんてことしてんだと非難じみた目で見た。鬼怒田だってお前が責任を取れと言って、智をずるずる引きずってどこかへ向かった。
でも。
「もともと、アイビスを取るつもりだったんです……だから」
高遠先輩はなにも悪くなくて、と千佳は言った。申し訳なさで視線が落ちる。智はごくっと一口ジュースを飲んで、あっけらかんと言う。
「んなこたー関係ないよ。どっちにしろお前は、俺の渡したアイビスで撃った」
「でも」
「それに実は悪いことしたともあんま思ってないし。驚かせたこと含めてな」
え?と顔を上げると、智はにやりと笑っていた。
ぽん、と頭に大きな手が乗る。
「ある意味いい機会だった。自分の力のこと、もうちょっと自覚しとけな。お前にはあれだけの力がある」
千佳の力は基地の厚い壁をぶち抜いた。みんな驚いていた。鬼怒田は千佳の頭を撫でて、両親に感謝しなさいと言った。こんな、狙われるだけだった力のことを。兄や友達を失った原因をだ。
「……お前は戦えるし。守ることだって、できるんだぞ」
よしよし、と千佳の頭を、智は宥めるように撫でる。それはいつか、自分を慰めてくれた兄の手にどこか似ていて、ココアの缶を持つ手にぎゅっと力が籠もった。視界がじんわりと、滲んでいた。