たまには上を歩いて帰りたいわ、と月見は言ったのだった。今日は月が綺麗だから、と。
オペレーターは戦闘用のトリガーを持っていない。本部までの行き帰りには基本的に直通通路を使う。常に戦闘状況が発生しうる地上の通行は、禁じられているとまでは言わないが、望ましくない、とは言われている。
もしやむを得ず通行する際は、B級以上の隊員を連れるように。それが決まり事だ。生身でトリオン兵に遭遇すれば命がないのだから、当たり前のことではある。
遠くに戦闘の音。近界民は夜になろうが侵略の手を緩めはしない。
月見は怖がる様子もなく、軽い足取りで智の先を行く。
「……おい、月見。あんまり離れるなよ」
いつゲートが開くとも知れないから、周りを伺いながら智は歩く。トリオン兵の何体が来たってどうとでもできる自信はあるが、今は月見がそばにいるのだ。用心は必要である。
ふふ、と笑い声が聞こえた。
「なんだよ」
「随分慎重なのね、珍しい」
「足手まといがいるんだから当然だ」
「そう」
月見が振り向いた。微笑みを浮かべる白面は、青白い光に照らされて一層白い。
きれいだ。
口に出さずに思う。目が合った。
「──ちゃんと守ってね。高遠くん」
にこりと笑みを深めて月見が言う。
「……わかってる」
お前の幼なじみほど強くはねーけど。お前ひとりくらいは。
どことなく不満げにそう付け加えれば、ふふ、とおかしそうに笑って、月見はまた前を向いた。
周囲に人工の明かりはない。一歩一歩進むその様を月だけがやわらかく照らしている。
「……歩く姿は」
「なにか言った?」
「…………別に」
まさしく花にたとえられそうな女が、そこにはいた。