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バレンタイン/小佐野/男主

隊室である。諏訪隊の隊室である。
俺はソファーに座る小佐野の前で仁王立ちをして、右手を差し出した。

「チョコレートをよこせ」
「な~い」

つきあっているはずの相手に、よりによってこんな日に、そんなのんきなことを言われるとさすがの俺もびきっときてしまう。おまけに小佐野は俺に目も向けず、文庫本を開いているのだ。何の本を読んでいるのかはわからない。誕生日に俺がやったブックカバーをつけている。

「……お前今日がなんの日だかわかってんのか?」
「バレンタイン」
「わかってんじゃねーかなんで何も用意してねーんだよ!!!」
「だって」

もらう専門だし、と小佐野は言った。

いやもらう専門でもさあ。彼氏がいるんだしさあ?せめて買ってくるとかさあ?本命チョコもらえると思ってた俺のうきうきはどうしてくれんだって話だ。
あーわかった。期待した俺がバカだった。

「……」

小佐野がいつものように口にくわえている飴の棒をがっと掴む。びっくりした小佐野の肩が跳ねる。

「もーこれでいい。よこせ!」

棒を引っ張ると歯にがちっと当たって止まった。抵抗されている。やっとこっちを見た。口を開けると飴を奪われるので何も言わないまま、止めようと手で俺の腕をつかんだ。
んんーっ!と小佐野が不満げに唸ったところで、諏訪さんが隊室に入ってきて、ああ!?と声を上げる。

「ウチのオペレーターに何してくれてんだ高遠!!」
「何かしてもらいたくてやってんだよ!おっさんは黙ってろ!!」
「おっ……おっさん!!?てめえ……!」

青筋を浮かべた諏訪さんが俺を羽交い締めにする。そのまま関節技に持ち込まれる。
気の済むまで技をかけられてボロボロになった後、倒れ込む俺のそばにしゃがんで、小佐野はくわえているのとは別の飴をくれた。ハッピーバレンタイン。辛うじて。