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先輩による後輩のための/村上/男主

支部に顔を出した瞬間、村上鋼は同じ支部所属の先輩である智に腕を引っ張られ、会議室に連れ込まれた。ホワイトボードの真ん前に置かれたたった一脚のパイプ椅子に座らされ、いったいどうしたのだと戸惑いの眼差しを先輩に向ける。わけのわからないことにも一応逆らわない村上はいい後輩だった。

「高遠さん、どうしたんですか」
「みとけ」

村上の問いかけは無視して、智がマジックを手に持った。きゅきゅ、っと音をたてて白いボードにペン先を走らせる。へたくそな棒人間と、それから似顔絵らしきものを描き、その下にそれぞれふつうのやつ、こう、と書いたので、村上はぱちぱちと瞬きをした。
上のスペースには、同じ長さの縦線を二本引いていた。

「いいか」

トン、とペン先でボードを叩いて、智が村上の方を見た。黒い点がぽつりと残る。

「フツーのやつと、お前。これがそれぞれが到達できる強さだとする」
「……はい」
「お前のサイドエフェクトでできんのは、この……」

線の一番上に、小さく丸を描いた。

「……頂点に至るまでの時間を、短縮することだ。他人の何分の一か、下手したら何十分の一まで」
「……」
「それだけだ」

村上は返す言葉を持たずに、ただ智を見つめて黙り込んだ。ボーダーに入って検査を受け、名前を付けられることによって確固としたコンプレックスとなってしまったそれについて、この人は言っているのだ。
人より少ない努力で、人よりも高い位置にたどり着く、不平等で特別な能力のことを。

「それだけってなんですかって言いたそうな顔してるから懇切丁寧に教えてやる。あのな、人の能力なんて、もともと平等じゃねーんだよ。それぞれ得意不得意があって性能の差があって、修得に時間差あんのも当たり前なわけ。お前はそれがちょっと極端なだけ。お前が強くなったのはサイドエフェクトのおかげじゃなくて、お前がもともと強くなるはずだったから」

目を大きくしたまま、まだ黙り込む村上にため息をついて、智はがしがし自分の頭をかいた。

「……おかしなもんだよ。性能の差だって思ってるうちはみんな納得してんのに、いざサイドエフェクトだって認定されると途端に羨ましがったり恥じたりしだす」

お前もだろう、と、智が睨んだ。

「早く強くなんのがなんだっつーんだ。お前はまだNo.7で、俺にも勝ててねえだろうが。いいか村上、安心しろ──」

 

あのときの智は、そのあとにやりと笑って、自分の頭をぐりぐり撫でてくれたな、と村上は思う。荒船がアタッカーをやめて、それについて誤解して落ち込んでいた村上を、荒船や来馬より少し遅れて叱咤したのが智だった。

「『お前がどんなに学ぼうが、それよりずっと強くいてやる』……って言ったのになあ」

訓練室の床に大の字で寝転がって、肩で息をしながら、今の智が言った。ぐっと腹筋だけで起き上がり、村上を見てバツが悪そうに笑う。

「負けた。」
「はい。オレの勝ちです」
「カッコ悪いか、俺」
「いいえ」

あぐらをかいている智に歩み寄って、手を差し出した。智はしばらくその手のひらを見つめたのち、思い切ったようにその手を取った。痛いくらいの力でつかみ、立ち上がる。

「高遠さん」
「おお」
「あの時はありがとうございました」

誰より強くなろうがもう平気だった。サイドエフェクトに引け目を感じたりもしない。
来馬に、荒船に、智。村上は自分を思ってくれるたくさんの人からの言葉を得ていて、それに支えられて立っている。

「高遠さんはずっと、格好よくて頼りになる、オレの尊敬する先輩です」

技術で追い越そうがなんだろうが、そこに変わりはないのだ。照れるからヤメロとジト目の智が言った。やめませんと返して、村上は屈託ない笑みを浮かべた。