智くん、勉強教えて。
いつものことである。
もうやだつかれた。休憩しようよぉ。
これもいつものことである。すなわち今日のことでもあった。
一時間もしないでくじけた幼なじみは、俺の勉強用の椅子の上に体育座りをして、しかし机の方は向かずにゲームに専念していた。お前そんな格好だとパンツ見えんぞ。
携帯ゲーム機のボタンを叩く指の動きはしゃべり方に似合わず迅速である。ゲームすんなら自分ち帰れよ、と言いたいところだが寂しいと言われてほだされるのが嫌だったので言わないのだった。俺も相当こいつに甘い。
学校の成績は悪いくせに、ゲームのこととなると努力値だのなんだのよくわからないことを饒舌に語り出すのだから、国近は変な女だ。
頭は悪くないのだ。やりたくないことはやらないだけで。やらなきゃいけないことでも、やりたがらないだけで。
「お前な」
「ん~?」
「テストやばいんだろ。ちったあやる気を見せろ」
「今日はちょっとやったからもうおしまい」
「……卒業できなかったらどうすんだ」
「できるよぉ。お仕事がんばってるもん」
「受験は」
「推薦もらえるんだ~。智くんみたいに頭いいとこ受けないし」
「…………そんなだと、将来就職……」
「ボーダーあるもん」
国近はまだゲームの画面を見ている。
「……ボーダーがこの先ずっとあるとは限らないだろ」
俺が言うと、国近が手を止めてこっちを見た。大きな目で数度瞬きをして、ふにゃり、と笑う。昔はなかったはずの色気みたいなものが滲んでいて心臓に悪い。
「ボーダーはねえ。なくならないよ」
はっきり言い切ってまた手元に視線を落とした。俺はもうなにも言えなくなってしまって、眉を顰めて黙り込む。
俺はボーダーじゃないから、なにも知らない。
こいつがこうして言い切るわけも、こいつがボーダーの任務とやらで不在にしていた二週間足らず、どこにいたのか、そしてなにをしていたのかも。なんにも。