頭がガンガンする。寒気がすごい。明らかに風邪だやばい。昨日雨で濡れたのが駄目だったな。
熱に浮かされ鼻水を垂らしせき込みながら、担任に連絡して休むことを伝えた。幸い今日は任務も入ってないし、無理してどこかに出かける必要は全くない。
とりあえず寝るのが一番かなってことで、枕元にお茶のペットボトルを置いてぐーすか寝ることにした。一人暮らしってさみしいな、と思ったのは一瞬で、俺の意識はあっという間に眠りに溶けた。
ピンポーン!!!
「……ん」
ピロピロピロピロ!!
「……おお……?」
「高遠ー!開けなさいよー!」
インターホンが鳴る。机の上のスマホが鳴る。ついでに玄関から知った女の声がした。小南である。ぼおっと覚醒し、もやのかかったようにはっきりしない目を擦りながら、よたよたと玄関に向かう。
「高遠!お、起きられないくらい悪いの!?」
ドアの向こうで慌て出す小南を「あーいまあけっからまって」と宥めつつ、チェーンを外して鍵を開けた。とたん勢いよくドアが開いて、制服姿の小南が入ってきた。怒り顔がずいっと近くに寄せられ、至近距離で「風邪ひいたならなんであたしに言わないのよ!」と怒鳴られる。脳にダイレクトアタック。
「いやむしろなんで知ってんだよ……」
「とりまるがあんたが休んでるって教えてくれたのよ!」
「ちょっとまってどなんな頭イテー」
「あっ」
ご、ごめんなさいとしおらしく謝る。
小南に背を向けてよたよたとベッドに向かって歩いた。靴を脱いだ小南が追いついて、ちょっと後ろを歩く。たどり着いた布団の上にぼすんと寝っ転がった。
「……朝は担任に連絡すんので精一杯だったんだよ」
いい具合の位置に落ち着いてそばに突っ立った小南を見上げれば、眉がまだ拗ねてた。「起きてるじゃない」と不満そうに言うのでため息をつく。
「今、お前に起こされたの。ずっと寝てたよ」
「ご飯は?」
「食ってねー」
「……食べられそう?」
「おお?」
そこでようやく小南が手にでかいビニール袋を下げているのに気づいた。
ポカリスエットのペットボトルが透けている。一応看病の心づもりできてくれたらしい。レイジさんのおかゆかレトルトかでもあったら大層ありがてーなあと思いながら、ごそごそと中身を探る小南を見守る。
「これっ!」どん、とペットボトルが置かれた。
「それからこれ貼って」コンビニかどっかで買ってきたらしい冷えピタが出てくる。
「薬も持ってきたからちゃんと飲むのよ」
「おー……ありがとうございます小南さん……」
して食料は、と尋ねると、まだなんかいろいろ入ってそうなビニール袋を持って立ち上がり、「今から作ってあげるわよ」とどこか自慢げに笑った。
「……え」
「レイジさんにたまごがゆの作り方習ってきたから!」
「いえ、小南さん、小南様、わたくしめにはレトルトで充分です」
「そんなにお腹すいてるの?すぐできるから大丈夫よ。十分くらいで」
「いやいやいや」
お前がお料理してるとこなんて今まで見たことないんですけどー!?と言いたい俺を捨て置いて、小南は「キッチン借りるわよ」と言い残しすたすた歩いて行った。
「……」
無理矢理止めたら絶対激おこで面倒なことになる。卵粥なんてそう難しいもんじゃないし、まあ料理の腕未知数な小南とはいえ、きっと、たぶん、まあ、……作れるか。作れるよな。
無言で冷えピタを自分の額に貼った。ひんやりして気持ちいい。
はあ。
「っきゃー!!!」
ドンガラガッシャーン!!!
「……」
悲鳴に続きマンガかよみたいな恐ろしい音が台所から聞こえてきて、言わんこっちゃないと真顔だ。(言ってないけど)
「だ、大丈夫!大丈夫だからね!……あっ」
ガッシャーン!!
「…………桐絵ちゃんほんと勘弁してくださーい!!」
布団をはねのけて台所へ向かった。へたりこんだ小南が大丈夫だって言ってるじゃない寝てなさいよと怒るがどう考えてもその背景の散らかりようは大丈夫じゃない。
「まったくお前がいると、静かに寂しがってるヒマもねーな……」
「はあ!?」
食器の破片なんかを片づけながら俺がごちると、小南はどういうことよと怒ったけど。どーゆうことって、まあつまり、そーゆーこと。