ボーダー本部の屋上が、この三門市で一番高いところだ。そう幅のない縁の上に寝転がって空を見上げれば、視界を遮る物なんてなんにもない。空はどこまでも高くて、青く澄んでいる。せいぜい鳥の影が横切るくらいだ。
「俺も玉狛はいりてー」
「えー」
なんでまたいきなり、と横に座っている迅が目線をよこさないまま言った。迅は宙に足を投げ出して遠くの景色、街がある方を眺めている。下を見れば目がくらむほどの高さなわけだが、落ちたところでトリガーを持つ俺たちにはあんまり関係のない話だから、恐怖心は薄い。
「最近こっちゴタゴタしてんじゃん。俺そういうのめんどくさくて嫌い」
派閥とかしょーじきどーでもいい、と続けたら、迅が「そんなこと言ったら城戸さんが怒るぞ」と窘めてくる。
「いやあ怒んねーよ。俺別に近界民恨んでねーもん。あの人も知ってんだろ」
城戸派は最大派閥だなんてみんなよく言うが、そうは言っても、その内訳はいろいろなのである。三輪とかあのへんみたいに近界民憎しでいる奴らはもちろん多いが、遠征に釣られてる太刀川さんみたいな少数派もいないではないし。
それに最大派閥ってのは単純に最大派閥であるがゆえに、勢力争いにさして興味がなくふらふらしてる奴が流れてきやすい。人が人を呼び、そうして組織の中で更に肥大していく。そういう性質を持っている。
だから俺が城戸派にいるのは、いわば成り行きなのだった。信念も目的もなにもなく、俺はただなんとなく最大派閥に属して、上の機嫌を損ねないように、近界民をかもしてころすぞーなんてことを棒読みで言ったりするわけである。かもせねーけど。
「……本部のゴタゴタの原因はうちだよ」
「そーだけど。玉狛自体はほのぼのしてんだろが」
「……」
「いいトコだよなあ玉狛。動物も子どももいるし。女子はかわいい。木崎さんのうまい飯もある」
体を起こして、なーだめ?と聞いてみた。迅がちらりと青い目を向けて「駄目」と言う。
「なんでだよー。俺なかなか使えると思うけど」
「そう。だからだよ」
「うん?」
「おまえは有能だから、こっちに来られると困る」
「はあ?」
「頼りになって話聞いてくれて、いざという時力を貸してくれる奴が本部にいてくれると、おれはとってもありがたい」
「…………おお」
なんか褒められた。こいつがこんなこと言うなんて珍しい。瞬きしてから、ふふんと鼻を高くして笑う。そりゃ褒められたら嬉しいもんだし、あと俺は謙遜はしない主義だ。
「俺そんな頼りになる?」
「なるなる」
「かっこいい?」
「かっこいいかっこいい」
「じゃー仕方ねえから本部にいてやる」
「うん」
ありがとな、と迅が言った。今日のこいつは、なんだかくすぐったい。
迅の行動に無駄なことはあんまりないのだ。俺も周りの奴らも知っている。だから俺もいつか本当に、こいつの役に立つ時が来るんだろう。それは利用とかじゃなくて、ただ困ってる友人に、俺が力を貸してやりたいってだけの話だ。
「……なんかあったら言えよ!俺がいるぞ!」
あぐらをかいて、迅の背中をバシッと叩いた。力が強すぎたか、体が前にずれて下に落ちそうになった。さすがに危ないとお互いちょっと冷や汗をかきながら、それでも迅は、いつもの顔であははと笑っていた。