夏油傑の体については、随分前から目をつけていた。生まれ持った術式に、それを使いこなす才、呪力。そして立場と、目的を達するには申し分ない体であり、しかも手に入れるのに案外苦労はしなかったのだからありがたい。旧友の遺体の処理を、信頼できる人間に任せなかったどこかの最強の甘さに感謝の気持ちさえ芽生える。
あとはこの体の持つもののどこまでが、自分に利用できるのか、それを確認するだけだ。
無事に馴染んだ夏油の体で、一人の女に会ってみた。
こちらも前々から目をつけていた女だった。夏油傑の同期で、たった三年とはいえ同じ時を過ごしている。五条ほど強くもなく、家入ほど周りのガードが堅くない二級の術師は、名を高遠あきらと言った。
「やあ、あきら」
夏油傑という男が死んだことは、彼女も知っているはずだ。案の定こぼれ落ちんばかりに目を見開いて、あきらは呆然とこちらを見つめた。
「久しぶりだね、元気だったかい」
まるで久しぶりに会った旧友にするように、彼を真似て、機嫌よく語りかけてやる。声を掛けられたあきらは我に返ると、ぎりぎりと下唇を噛みしめ、腰を落として構えを取った。
あんた誰なの、と虫の息で倒れている術師に聞かれ、男は目を丸くする。誰なの、と来るか。何故生きているのか、ではなく、誰と。
「夏油傑だよ。君のよく知る」
「ふざけないで」
落ち着いた言葉が返り、男は哄笑を漏らした。なぜわかったんだい、と聞いてやれば、少し間を置き、「誰でもわかる」と答えた。
「夏油を知ってる人間なら、誰でも」
「へえ」
それは参ったな、と言いながらも、口の端はつり上がったまま笑いが収まる気配がない。精々参考にさせてもらおう。何、彼女がそうだったように、少しの動揺が引き出せれば、それで充分なのだから。
慣れ始めた術式を使い、女の体を食らわせるための呪霊を呼び出した。おそらく彼女の知っている顔で、にっこりと笑いかけてやる。
「ご協力感謝するよ」
ありがとう高遠あきら。この体の友人よ。きっともう、聞こえてはいないだろうけど。