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メカ丸に起こされる

※三個目が出てこないうちに

 

「起きロ、高遠あきら」

妙に機械じみた声が、目覚ましの音のように耳についてあきらの眠りの邪魔をする。ううん、と唸りながら目を擦るあきらは、目の前のシーツの上におもちゃのようなものを見つけて眉を顰めた。日曜の朝にやっている特撮番組で、何かの小道具とかになっていそうな、小さな丸い物体だ。
なんだこれ。心当たりがない。首を傾げて拾い上げたとき、

「起きたカ」
「うえっ」

夢うつつで聞いた声がもう一度、今度は手の中から聞こえて面食らう。
変な声が出た。驚いて取り落としたそれはぽとんと再びシーツの上に落ち、あきらは警戒して後ずさった。寝起きで少し鈍っていたが、それからは弱いながらも呪力の気配がする。よく見ればメカっぽい。メカ?

「あ」
「呪術高専京都校のメカ丸ダ。アンタとは一度会ったことがあル」
「あるある。覚えてるよ」

随分前のことだが、準一級の昇級任務に同行したことがある。究極メカ丸とかいうふざけたような名前と、メカそのものの体。
だがあきらはもう一つ、彼について知っていたから、警戒はむしろ強まった。

「内通者だってことも、知ってる」
「…………」

黙り込んだ彼が何をしたいのか、あきらにはまだわからない。だが感じ取れる呪力からして、大したことはできないだろうというのはわかっている。
メカ丸は少しの沈黙の後、「五条悟が封印されタ」と突拍子もないことを言った。

「は?」
「場所は渋谷ダ。状況を把握している補助監督と連絡がつくかは怪しいガ、数時間前からそこで混乱が起こっていることくらいはすぐに確認できるだろウ」
「いやいや、待ってよ、五条が何だって?」
「時間がなイ」
「……」
「これは随分前から、大勢の呪詛師と呪霊によって周到に準備されていた計画ダ。力を貸してくレ。頼ム」

五条が?封印?そんなことあり得るか?
簡単に封印なんかできるような男であれば、そもそもみんなこんなに振り回されていない。
けれど機械を通したような男の声は真剣で、とても嘘を吐いているようには聞こえなかった。あきらはこう言ったときの自分の勘をどうも無視できない。額を押さえながらしばらく考え、あきらは勢いよく立ち上がった。よく見るとインカムのような形になっているメカ丸を拾い、右耳に取り付ける。

「信じるのカ」
「あんまりにも突飛すぎるから、逆に信頼できる気がしてきた」
「……そうカ」

感謝すル、という短い声を聞きながら、あきらは大急ぎで寝間着を脱ぎ捨てた。
着慣れたいつもの動きやすい服へ。これから急いで外に行かねばならない。
その間にも時間が惜しいとばかりに話す、メカ丸の言葉と指示を聞く。渋谷の状況。大都会のただ中に、いくつも下りた特殊な帳。閉じ込められた非術師たち。敵の狙いとその動き。あきらが期待されている役割について。

「渋谷にはあんたの本体がいるの?」

あらかた聞き終え、玄関に座り靴を履くあきらが尋ねると、一瞬間を置いて、いヤ、と否定が返った。

「俺は既に殺されていル」
「……そう」

その答えを予想しなかったわけではない。声の固くなったあきらに向かい、話を伝え終えて余裕が出たらしいメカ丸は、少し歯切れ悪く、「正直、アンタを信用するかについては迷っていタ」と続けた。

「奴らは俺の思っている以上に、高専という組織の奥深くに食い込んでいル。アンタが裏切り者の可能性も勿論あっタ」
「……へえ。じゃあなんで信用したの」

少し興味を持ったあきらが、早足で階段を下りながら聞いた。
メカ丸の答えは明瞭だった。

「五条はアンタの恋人だろウ」
「…………」

車よりは術式の方が早いな、と印を組み掛けていた手がぴたりと止まった。
別に誰かに言った覚えはないのだが、何故知られているのか。ひょっとしてみんな知っているのか。生徒たちの前では特に気を付けていたのにバレバレだったというのか。と思考の止まったあきらの耳元で、メカ丸が続けた。

「そういうのを、信じてみたくなっタ」
「…………そう」

相槌を打って、あきらは印を組む。大型の狼のような形をした式神がどこからともなく現れて、あきらは慣れた動作でそれの背に乗った。
毛皮をつかみ、その下で躍動する筋肉の動きを感じながら、もしかして好きな子がいたのかもな、となんとなく思った。
 

「メカ丸」

渋谷へ向かって、獣は夜の空を駆ける。風に紛れないよう、あきらはしっかりとした声で呼びかけた。

「なんダ」
「どこで死んだのか、教えてよ」
「…………」
「この件が終わったら、必ず迎えに行く。……あんたにとってはもう、何の意味もないことかもしれないけど」
「…………いヤ」

あきらがしてやれるのはそれくらいだ。今もどこかに打ち捨てられているだろう彼の体を弔って、彼を弔いたい誰かに教えてやることくらい。
 

「——ありがとう」
 

ごうごうと吹き付ける風のせいだろうか。
声は小さく、けれど確かだ。聞けば表情が浮かぶような、あきらの知らない、少年の声だった。