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様、記名、手紙無し(男主)/甚爾

腕に新聞やハガキ、その他諸々を抱えた使用人仲間から、智はよれよれの封筒を受け取った。
なんだよと聞けば智さん宛ですと返される。受け継ぐべき術式を持たず、本家で雑用係として飼い殺しにされてきた身には、それらしい心当たりがなかったので、智は首を傾げてそれを受け取った。
封筒の表には綺麗とは言いにくい文字で、本家の住所と禪院智、それだけが書かれてあった。失礼なことに様の一文字さえない。差出人の名前もだ。

「なんだコレ」

怪訝そうにそれを日に透かしたりしてみたが、中身がわかるはずもない。
溜息を一つ吐いて、封筒の口当たりをピリピリと破り、中をのぞき込む。どうやら紙が一枚だけ入っていた。指を差し込み、中身をつまみ出して、智はそれを見る。

「写真?」

赤ん坊と、それを抱く女性の写真だった。

どちらも智の知り合いではない。
生まれてしばらく経っているのか、黒い髪がふわふわ生えた赤ん坊が、柔らかく抱かれてすうすうと眠っている。女性はこちらを、というよりこの写真を撮っただろう人間を見て、柔らかく微笑んでいた。

赤ん坊の面差しには、どこか覚えがある。

「…………アイツ、そうか」

思い出したのは一人の男のことだ。
智と同じく禪院の術式も、呪力さえ持たずに生まれ、虐げられて育った使用人仲間。こんな家真っ平だと、強気に笑って本家を飛び出した、智とは違い、とても強い男だった。
ハハッ、と智は吹き出した。なんとなく天を仰いで、どこにいるかわからない相手の代わりに、空に語りかけてみた。

「──お前、今、幸せなんだな」

見上げた空は、かつての仲間を祝福するかのように、青く高く澄んでいた。