偶然校内で出会った担任の高遠あきらが、不機嫌さを隠しもせず「何か言うことないの」と言った。
「特にありません」
きっぱりと返して、そのまま通り過ぎようとした七海の腕を、すれ違いざまにあきらが掴む。
「……なんですか」
「今日の日付を言ってみろ」
「10月31日」
「そうだよ10月31日だよ。……ハロウィンでしょ!!?」
最近の若者冷め過ぎじゃない!?とあきらは大声で嘆いた。
どうも七海とかち合う前に、一つ上の学年にも話しかけたらしい。子供らしくトリックオアトリートと言ってもらい、昨日わくわくして買いに行ったお菓子を渡して、とにかく楽しくワーワーやりたかったのだとぶつぶつと呟いている。
実際はいい年してはしゃぎすぎでしょ(五条)、ちょっと今忙しいので(夏油)、甘いものならいらない(家入)と散々な結果だったとのことだ。
「……10歳かそこらの子供じゃないんですよ」
「ハア?16とか17なんて子供とそう変わらないでしょ」
「失礼しますね」
「いや待って、待ってよどこ行くの」
10歳と一緒にされて少し苛立ってしまった。去ろうとするが腕は放してもらえない。
ハア、とこれ見よがしに大きく溜息を吐いて、七海は「トリックオアトリート」と言ってやった。
あきらの顔がぱあっと明るくなる。
「えへへ、じゃあお菓子あげる」
言いながら上機嫌で宙に指先で円を描くと、ぽっかり暗い穴が開いて、そこからお菓子の詰められた袋がぽとんと落ちてきた。
そういう術式だとは知っているが、一体どこに何を入れているんだ、と七海はまた呆れる。
手渡された菓子を見ると、どれも結構いいもので、しかもわざわざハロウィンらしくラッピングしてあり、改めてこの行事にかけていたあきらの期待を思い知った。
七海から望んだ言葉を引きだしたあきらは満足げに笑うと、やっぱあいつらにも押しつけてくるわ、と張り切り始めた。
「スカしてんのもいいけどさあ、もっと青春しなよ!今だけだぞ!」
「余計なお世話です」
突っぱねてやっても何のその、あきらが笑いながら七海の横を通り過ぎ、次の標的の元へ向かう。
すれ違いざまに肩を強めに叩き、「青春!」と意味不明な捨て台詞を、二十代半ばの女は恥ずかしげもなく残していった。