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小さな絶望の話/七海

目覚ましが鳴り、隣でごそごそと起き出す気配に徐々に目を覚まし、自分の携帯のアラームで観念するというのがあきらの朝の習慣だ。
起き出す頃には大抵隣で寝ていた男は身支度まで整えて、ソファーに座ってコーヒーなど飲んでいる……はずなのだが、今日はどうやら様子が違う。
布団からやっと顔を出したあきらは、自分に背を向けて何かをじっと見つめている七海の姿を見つけた。
なにしてんのと寝ぼけ眼で尋ねてみる。
返事はない。

「七海?」

おかしい。体調でも悪いのかと少し心配になった。
膝でにじりよって、側まで来ると七海の顔をのぞき込む。どこか一点を見ているから、そのまま視線を追いかけてみた。

七海の視線は自分が今朝まで使っていた枕に行き着いているようだった。
あきらは目を凝らし、やがてあるものに気づいた。

「……あっ」
「………………」

――髪が。
枕の上に散っている。

長さで誰のものかは丸わかりだ。あきらはあわわと口を押さえて、枕とショックを受けているらしい持ち主とを交互に見た。

おそるおそる膝立ちになって、頭頂部を勝手に確認する。
髪はたくさんあった。特段薄くなったという印象はない。

「な、七海」
「……」
「大丈夫だよ、全然減ってないって」

まだ二十代じゃん、と元気づけてみるものの聞いているのか聞いていないのかわからない。というかこんなことを気にする人間だったのか。
こういう時の慰め方がわからなかったから、とりあえず雰囲気を取り繕うように七海の後ろから抱きついて、ぴったりとくっついてみた。

「万一ハゲても好きだって」
「……そういう問題ではありません」

やっと喋った。
本日初めて聞いた七海の声は珍しく拗ねているようで、なんだか子供のようだった。かわいいなとまた珍しい思いを抱き、あきらは思ったままによしよしと、整髪料のない柔らかい髪を撫でてやる。

「あ」
「…………」
「あ、あは、髪また抜けちゃった。多分元々抜けてたやつだと思うけど…………」

えへ、とごまかし笑いをするあきらの手から、はらりと短い髪が落ちたのを七海は見た。見てしまった。