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七海の髪

いきなり耳のあたりに触れられた。

「…………何ですか」
「いや」

予想外のことが起こると一瞬固まる癖が七海にはある。少し間を置いて、その割には動揺が出ていない平坦な声で、七海はなおも自分に触れる一つ上の先輩を見た。
あきらは何でもないような表情で、「邪魔そうだったから」と続けた。

「何がですか」
「髪」
「……」
「切りに行った方がいいよ」

あきらの言う通り、少し髪が長くなってきていることに気づく。癖がなく素直な七海の髪は、顔に垂れて視界を狭めることもあるので、それについての心配らしい。
見えないと戦えないからねと言いながら、あきらは七海の耳に、少し伸びた髪をかけた。

ようやく手が離れ、こっそり緊張していた七海の気が緩む。
しかしあきらはあまり納得していないようで、少しすっきりした七海の顔を眺めて、またうーんと唸った。

「やっぱ落ちるなぁ」

ポケットをごそごそ探り、取り出されたのは黒いヘアピンだ。眉間に皺を寄せた七海が、拒否するように一歩離れた。

「……いりません」
「遠慮するなって」

取った距離など簡単に詰められて、しばらくつけるつけないの問答を繰り返したが、結局勝ったのはあきらだった。
七海の髪に手早くつけては満足そうに笑う。色素の薄い髪に、黒い線のようなそれはよく目立った。

「外すなよ。これ先輩命令ね」
「…………」

念を押されて不満げに黙り込む七海を見て、あきらは腕を組み、ウンウンと満足げに頷いていた。