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七海が編入してきた

長らく一人きりだった第一学年に、待ちわびた編入生がやってきて、あきらは大層喜んだ。
狭い教室で教師の夜蛾が紹介してくれたのは自分よりだいぶ背の高い、ただただ真面目そうな、面白味のなさそうな男だった。できれば女子がよかったがこの際文句は言わない。これでやっと、あきらの級位が足りないせいで必然先輩たちと組まされ続けていた実習に、一年二人で出向くことができるのだ。
これはあきらにとってはとても嬉しいことだった。
関わりが多い一つ上の学年でまともなのは夏油一人だ。あとのサングラスをかけた馬鹿(みたいに強いと言う意味も含む)な先輩と未成年ながら煙草を堂々と吸っている不良な先輩は本当に厄介で、関わる頻度が減るのがこの上なく喜ばしい。

というわけであきらは意気揚々と、機嫌のいいことが誰にでもわかる足取りで、編入生の七海を後ろに伴って歩いた。校内の諸々の設備とか、呪術師の家系出身ではないらしい七海には馴染みがないだろう話とか、そんなことを道すがら話す。
七海は「はあ」とか「そうですか」とか聞いているのかいないのかわからない静かな相槌をするだけだったが、あきらはちっとも気にならなかった。

寮にたどり着くまでは。

「おっ、あきらじゃん」

共有スペースに到着すると、そこには困った先輩二人がいた。
大きなソファーのスペースを必要以上にゆったりと使って、五条はテレビを見ていたし、家入は興味なさそうに携帯を触っている。

さっきまでの機嫌の良さを引っ込めて、ゲッと身を竦ませたあきらを七海が不思議そうに見た。何がゲッだよと少し不機嫌に言った後、五条はあきらの後ろにいた見慣れない学生に目をつけて、面白そうに笑う。

「噂の編入生?」
「ああ。そう言えばそんな話があったな」
「名前は?」
「……七海です」
「ふうん」

ふうんじゃないだろ、という顔を七海はした。
名乗ったのだからそりゃあ名乗ってほしいだろう、と七海の気持ちを察したあきらは、この二人がそんな親切な先輩たちではないことを骨身に染みて理解していたので、紹介役を買って出た。

「そっちの白頭のサングラスが自称最強で一緒に実習すると呪霊たくさん倒した方が勝ちとか言って後輩にジュースを奢らせまくる五条先輩で、そっちの黒髪の女の人が家入先輩。反転術式練習中でいつも怪我人を欲している。危ない目に遭ってもあんまり助けてくれない。どっちも二年で、あと一人、夏油先輩っていう唯一手放しで尊敬できる先輩がいるけど、今は東北に出張中」
「ちゃんと治してやってるだろ」
「誰が自称最強だって?」

家入はしれっと口にするだけだったが、手がすぐに出る五条は軽く青筋を立てながらあきらに手を伸ばし、頬をつねった。やめへくらはいと言いながら、手を払いのける。そのまま今日入ったばかりの編入生の後ろに隠れてみたら、無言の七海は自分を盾にするあきらを見下ろして、ろくなやつがいないと言いたげな溜息を吐く。

「いや、七海が来るまで本当に大変だったんだからね!!?」
「そうですか」
「私まだ三級だし……一年は私しかいなくて実習の度にこの人たちとさあ」
「はあ」
「今日それしか聞いてない気がするけど私と上手くやる気ある!?」
「一応」

一応って何!?と喚くあきらを見ながら、「楽しそうなとこ悪いけど」と家入が割って入った。

「なんですか!」
「明日の実習、学年合同になったから」
「……嘘だあ」
「嘘じゃないよ」
「あきらは五条とペア。七海は私とだ」
「……………………」

いやだあ夏油先輩早く帰ってきてえ、と手で顔を覆って嘆き始めたあきらと、あきらをからかって実に楽しそうにしている五条と家入を見て、七海は来る場所を間違えたかもしれないと心底思った。まともな夏油先輩とやらが本当にいるのなら、今すぐここに帰ってきてほしい。