「俺、今日誕生日なんだけど」
いやあそうだった。忘れていた。
あきら自身の誕生日とは違って、家ではこの時期になると誰も彼も騒ぐからわざわざ覚えておく必要もなかったのだが、高専に来ると話が違う。
一瞬ゲっと思ったものの、すぐに平静を装って、あきらはおめでとうととりあえず手をパチパチ叩いて見せる。
「…………」
めちゃくちゃ不満そうな顔をされてしまった。
生まれてきてくれてありがとう、なんていう最高の賛辞を足したのにそれでもまだ悟はお気に召さないらしい。
手を差し出されては?と首を傾げると、あぁん?と凄まれた。
「なんかないわけ」
「ない」
「……」
また不機嫌になる。
「今思い出したんだもん、ないよ」
正直に言うと恨めしげに睨まれた。
どうしてそんなにプレゼントに拘るのかあきらにはわからない。
プレゼントが嬉しいのは、普段手に入らないものが思いがけず手に入るからだろうし、五条本家で大事にされて育ったボンボンであり、高専にいる今でさえ特級術師として姉のあきらより遥かに稼ぎのいい悟にプレゼントなどあげたところで、あんまり意味がないんじゃないのと思う。自分で買えばいいし、なんなら家の人間に寄越せと言えばいいのだ。
わざわざあきらに貰う必要なんてない。
それでも無言で自分を睨み続ける弟に、あきらは溜息をつく。
なんかほしいものあるの、と聞いた。
「……別に」
そらみろ。と思うが口に出すと機嫌が悪くなるのはわかっていたので、あきらは口を噤む。
かわりに。
「……じゃあ何か探しに行く?」
少し間があって、ムスッとした顔のまま悟が頷く。
「高すぎるものと趣味が悪いものはなしね」
「はぁ?どういう意味だよ」
拗ねた子供みたいな声で悟が言う。でもさっきまでとは少しだけ、違っているように聞こえた。