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もし姉が小さくなったら

※続き考えてません。

 

「あ、五条、ちょうどいいところに」

いつも通り夏油と組んで向かった実習を当たり前に楽勝で終え、高専に帰ってきた悟たちを出迎えたのは、留守番をしていた同期の家入だった。
悟の隣に立つ夏油におつかれーとゆるい挨拶を投げ、それからまた悟を見る。まっすぐ自分を見つめてくる黒い瞳に何か嫌な予感を覚えつつ、悟は口を開いた。

「……ちょうどいいところにってなんなわけ」
「ん。実はね」

ひとつ頷いて、くるりと体を翻す。そしてちょっと中腰になり、よいしょというかけ声とともに、

「あきら先輩のことなんだけど」

突然のことにびしりと固まった子供──どう見ても、大昔、小学校にも通っていなかった頃の──悟の姉を。
硝子はこちらに見せつけるように、抱え上げていた。
 

**
 

「どーいうことだよ!!」
「だからわかんないって言ってるじゃん」

五条の剣幕にも臆すことなく、家入はあっけらかんと言った。びっくりしているのは、その家入の足にしがみつくようにしている子供、あきらだけだ。

五条あきらが子供になった。
本人が言うには五歳。肩までの黒髪に、虹彩の色といった違いはあるが、整った顔立ちに大きな瞳、それを縁取る黒々とした睫毛──この間突如縮んだ悟と年の頃も見た目もほとんどそっくりだ。ただ悟と違うのは、きっちり周りに怯えているということである。(これに関してはあきらの反応こそ普通で、縮んでいた間ずっと学内をはしゃぎ回っていた悟の方がおかしい)

いつかの自分もそんな目に遭ったことがあるから、ないことではないとわかっているものの、それでも実際に身内がそんなことになると冷静ではいられなかった。まあまあ、と夏油が宥めるが、悟はキッと家入を睨みつけ、「治るんだろうな」と尋ねる。

「呪いが抜ければ治ると思うよ。五条も治ったんだし。ていうか私が見るよりアンタが見ればいいんじゃないの」

その目で、と普段通りのどことなくやる気のない口調で家入が促した。それもそうだと悟は思う。
六眼、呪力を見る瞳──五条家に宝のように伝わるそれを悟は持っていて、またある程度使いこなしてもいた。目の前の姉とは違ってだ。

「よし。あきら、こっち来い」
「……」

早速視ようとするが、あきらは一層硝子の陰に隠れてしまった。

どう見ても怯えられているし、警戒されている。クッと横の夏油が笑いを漏らすのを聞いて、悟は親友を恨めしそうに睨みつけた。

「いや、ごめん。でもさ、悟も悪いよ。相手は小さな女の子なんだから、もっと気を遣ってあげないと」
「なんでだよ。アイツ、あきらだろ。俺のことくらいわかんだろ」

眉間に皺を寄せて悟が言う。
それを聞いた硝子がしゃがんで、あきらに目線を合わせた。「あきらちゃん、あの白い髪のお兄ちゃんのこと知ってる?」と尋ねる。あきらは大きな目で怯えたように悟をちらりと見ると、「……しらない」と言った。

「はあ!?」
「こらこら」

返答を聞いて思わず声をあげた五条を、夏油が諌める。あきらはまた家入の後ろに隠れてしまった。

「仕方ないだろ。あきらさんの中では、悟は自分よりも小さい弟なんだから」
「でも俺はわかっただろ!!」
「あれ?小さくなってた時の記憶、ないんじゃないのかい」
「………………わかったってあきらが言ってた」
「そういうことにしておこう」

どう見ても面白がっている夏油が、笑いながら言う。

「まあ、いい機会だろ。怖がられないような話し方でも練習しなよ」

悟がイライラと「あ゛ぁん!?」と吠える。あきらがまたびくっと怯える。自分のスカートの裾をきゅっと掴む小さな手を見て、家入が「任せんの無理そー」と率直な感想を述べた。