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直哉と個人戦

※京都の呪術高専通ってる直哉

 

「あきらちゃんって言うんや」

かわいい名前やね、とにこやかに話しかけられて、あきらは思わず言葉をなくした。
禪院直哉、交流会二日目の本日、個人戦の相手となった同じ一年の男はひとつ上の先輩と同じ御三家の男で、五条によるとそこそこまあまあ強いらしく、その上顔が良かった。しかも些細なことでよくぶすくれるめんどくさい先輩とは違って愛想がいい。

「え、えっと」

歳の近い男の子にそんなことを言われたのは初めてな気がする。混乱気味に一歩二歩下がり、目を泳がせるあきらを見て、禪院直哉がくつくつ笑った。

「うんうん。ほんまかわいらしいお嬢さんやね」
「ええっ」

今から呪術をもって呪いあうというのに、そんなことを言われるのは困る。まともに戦えなくなってしまう。あきらはたしかに呪術師の端くれではあるが、それ以前にまだ十代の、思春期の只中にある女子なのだった。整った顔には弱いし簡単にあしらえるほどの経験もない。

「ぜ、ぜ、禪院くん?」
「なに?」

後ろでふざけんじゃねーとか、ボッコボコにしろーとか、がんばれーとか、先輩たちからろくでもない野次が飛ぶ。けれどあきらはそれどころではなかった。

「私のこと今、か、かわ……」
「かわいいって?ゆうたよ?」

被せ気味に答えると、余裕ありげに微笑んだ。とうとう真っ赤になってしまったあきらを前に、薄い唇の端が釣り上がる。

「せやから、怪我とかせんうちに引っ込んどき」
「……は?」
「いちいち手加減すんのも疲れんねん。あきらちゃんも怪我すんのは嫌やんな?」
「…………」

すうっと頬の熱が冷める。一瞬前までとは全く違う鋭い目で、あきらは目の前の男を睨んだ。

「ひょっとして喧嘩売ってる?」
「はぁ?何が?」

ただの親切やんか。そう言って両手を広げ、戯ける男に口元が引き攣った。

「どうせ負けんねんし」
「……あんたさぁ」

完全に馬鹿にされている。

術師相手にごく普通のときめきを感じたあきらが馬鹿だった。
身近にいい例がいるのにどうして忘れていたのだろう。所詮御三家出身の男になんか、ろくなやつはいないのだ。

 

ひとこと
特別一級だったりするので通ってなかっただろうなとは思いますが、それはそれとして夢がある。