Skip to content

「違います。事件の原因はもう私が取り除きました」

檻の中で脅える子供たち。後ろでわめき散らすモノたちはまるで呪霊のように醜悪で、最早救いようがない。
 

『──コイツら、殺すか?』
 

冷えた頭を巡るのは、何故か一年も前に聞いた親友の言葉だ。
あの時何と返したか、夏油はまだ覚えている。覚えているが──
 

間違っていた、と思った。
 

指先から滲ませた呪霊が大丈夫と人の言葉を語る。子供たちはそれを聞いて、怪我のせいでろくに開かない目を見開いた。夏油は貼り付けた笑顔で後ろに向き直り、一旦外に出ましょうかと口を開く。

「──!?」

刹那、横っ腹に衝撃が走った。

嫌な音がしたからもしかすると肋が折れたかもしれない。激痛に息を詰めながら見た腹には、あきらが武器としている見慣れた槍の柄があり、夏油はそこでようやく、自分が同行者である高遠あきらの存在をすっかり忘れていたことに思い至った。
攻撃はまだ続いた。顎を殴られて脳が揺れる、鳩尾にスニーカーの蹴りが入り、受け身もとれない夏油の体を吹っ飛ばす。背中に衝撃。後ろから子供の悲鳴が聞こえたから、どうも打ち付けられた先はあの悪趣味な檻らしい。
完璧にいいところに入っているせいで頭が回らない。息をするので精一杯だ。
バキバキと音を立てて壊れていく檻を背にし、なんとか顔を上げると、猿二人を後ろにしてこちらを見据えるあきらの姿がある。

表情はない。だがこれが彼女の焦りの形だと言うことを、夏油は三年に足りない付き合いの中で知っていた。

「夏油」

冷たいだけの声色が夏油の名前を呼ぶ。後ろで子供たちが泣きわめく。猿どもがわあわあと、あきらの向こうで叫んでいる。

「──しばらく寝てて」

次の瞬間、いつの間にか這い寄っていた白蛇──あきらの式神が、夏油の首筋に噛みついた。毒だ。じわじわと薄れる意識と感覚の中、怒鳴り声のようなものにあきらが応対しているのが聞こえていた。