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だいぶ後

任務終わりに高専にやって来ると、菜々子と美々子が待ち構えたように夏油に飛びついてきた。傑お兄ちゃん!と変わらぬ笑顔、変わらぬ懐き方で両側から腕を組まれて夏油は苦笑する。
夏油とあきらが訪れた、あの村での出来事からはもう十年が経つ。あっという間に高専に入学する年になった二人と会うのは久しぶりで、だからこそ歓迎は熱烈だった。

「傑お兄ちゃん、今日任務で悟兄がね」
「もう今日は暇……?」
「あっねえ竹下通り!クレープ屋さん新しくできたって野薔薇が」
「ご飯も」
「そーそーお寿司食べたいって美々子と言ってて」
「美々子、菜々子、ちょっと待ちなさい」

次々と話しかけられた夏油が制止すると、二人はそれぞれはーい、といい子の返事で口を閉じた。高専でかわいがられ甘やかされ、結果奔放に育った二人だが、相変わらず夏油の言うことは素直に聞く。もっとも担任の五条あたりは手を焼いているらしいが。
ふう、と息を吐いて、夏油の言葉を待って見上げてくる両隣の二人に笑いかける。

「今日は予定があってね」
「ええー!!」
「高専には報告と、それから待ち合わせで来たんだよ」
「……待ち合わせ?」

その単語に思い当たる節があったらしい。二人が顔を見合わせて、嫌そうな顔をした。

「……そういえば待機室に来たっけ」
「へえ、早かったんだな」
「……こっち見て、苦笑いしてどこか行った」

じゃあ硝子のところか、と夏油があたりをつけて呟く。双子がむくれて、夏油の顔を睨み上げた。

「ずるい」

菜々子が短く文句を言う。
何が、と笑いまじりに尋ねると、悲しそうにも見える表情の美々子が、「あの人より私たちの方がお兄ちゃんのこと好きなのに」と言う。
夏油は喉の奥でくつくつ笑って、二人の視線を受け止めた。

「うーん、それはまあ、そうかもしれないが」
「でしょ!?」

思わぬ同意に、勢いよく菜々子が言った。けれど夏油は動じず、それでもね、と続ける。

「私が好きだからいいんだよ」

目を丸くした子供たちに、夏油は目をやって愉快そうに笑った。

「……多分、二人が考えているよりは好かれてると思うしね」

悪戯っぽく付け加える夏油の表情は穏やかだ。その上幸せそうだったから、二人はもう何も言えず、頬を膨らませるしかできなかった。