紫陽花
「二年前にさあ」
雨が降っている。知らない公園の片隅で、傘をくるくると回しながら、あきらと真依は迎えの車を待っていた。
実習の内容自体が幸い簡単だったので、真依にも無駄話に応える余裕はあった。
「ここ、来たことあるんだよね」
あきらはそう言って、目の前の紫陽花を見上げた。それくらいの大きさなのだ。こんもりとちょっとした木のようになっているそれには、赤紫の花がぽんぽんと飾りのように付いている。季節は六月、梅雨の始めだった。
「それがどうしたのよ」
真依がなげやりに答える。あきらは気にした様子もなく、不思議そうに口を開いた。
「その時はさ、青だったの」
「何が」
「紫陽花」
傘をまた、くるりと回した。
植え替えたのかなあ、でもなあ、と独り言のように呟いている。
真依はしばらく考えて、少し意地悪を思いついた。
「死体が埋まってるのかもね」
くすりと笑いながら言ってやる。あきらが目を丸くして振り向いた。
「そういうことってあるの」
「……さあ。ちょっと聞いたことがあるだけよ」
理由はなんだったか。死体を埋めた場所の土がアルカリ性になり、それが影響するという話だったような気がする。色は偶然なのだろうが、血に似た色に変わるなんて、不気味なものだと思ったものだ。
「ふうん」
紫陽花の山に向き直り、また傘をくるりと回して、あきらは「たぶんそういうことだね」とあっさり言った。
「は?」
「死体が埋まってるんだよ、きっと」
かわいそうにね、と言って、あきらが眉尻を下げた。いつか誰かが見つけてくれるといいけど、と続ける。
どこかそれが不気味で、真依は堪えきれずに形のいい眉を顰めた。
「……冗談よ」
「え、でも、ほら」
あきらがあらぬところを指さした。その先には誰もいない。あきらと真依と、不気味な色の紫陽花が、雨の中に佇むだけだ。