食い意地
喉が渇いたので、共用の冷蔵庫に飲み物を取りに行った。電気の点いていない薄暗いそこには誰の姿もない。冷蔵庫の扉に狗巻が手をかけた時、ふと背後に気配を感じた。
「……」
振り向くとそこには、白い服を着たあきらが立っている。
「……こんぶ」
驚かせるな、と少々の非難を込めて狗巻が言った。それからすぐ今日の実習で彼女が医務室に運ばれていたことを思い出す。もう目が覚めたのかと、少しほっとした。
あきらはなにも聞こえていないような態度で、あたりをキョロキョロ見回してから、とても悲しそうな顔をした。
「お腹すいた」
「?」
相槌の語彙のせいで誤解されがちだが、当然狗巻は食べ物の話をしているわけではない。そんなことはあきらもわかっているはずだ。
首を傾げて言葉を待つと、あきらは一層眉尻を下げて一言。
「おにぎり食べたい」
呟くなり、その場から文字通り掻き消えてしまった。
翌日、あきらが目を覚ましたと聞いて、狗巻はクラスメイトたちより少し遅れて医務室に向かった。
狗巻の手に持たれているおにぎりの並んだ皿を目にして、至る所に手当のあとを残したあきらが、「なんでわかったのー!!?」と嬉しそうに叫ぶ。見た目より元気そうな同級生に、狗巻は安堵の息を吐いた。