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心霊スポットにて※/学生七海

「なんか大変そう」

とまるで他人事のように、隣に座るあきらは言った。
その視線は車の外、今から二人で向かう予定の廃墟の方に向けられている。
月明かりに照らし出され、ぼんやりと浮かび上がる古い建物を隠すように、木や草が鬱蒼と生い茂っているのがここから見てもわかった。いかにも幽霊が出そうな雰囲気だ。

「そうですね」

七海は眉をひそめて頷いた。
確かに少し厄介なことにはなっている。

外では騒ぎが起きていた。
七海とあきらをここまで連れてきた補助監督と、ちょっと派手そうな見た目の少年少女が、廃墟の前でわあわあと揉めている。
高専による見回りと地元の高校生らの肝試しが被ったらしい。
私有地だ、そもそもこの時間に未成年がと正論で追い出そうとする補助監督と、それに反発する学生たちの諍いは今のところ終わりが見えない。
警察を呼んだ方が早いかもしれませんねと七海が言うと、あきらは目を瞬いた。

「私たちも補導されちゃわない?」
「されませんよ」
「そうかな?」

呪術高専の名の下に、七海たちにはいくつかの特別が許されている。しかも今日は引率の補助監督も同席しているのだ。
あきらが視線を車の外の諍いに戻した。
自分たちとは何もかも違う、同じ年頃の高校生たちを、どういう表情で見ているのか、七海にはわからない。

「……ねえ七海」
「はい」
「幽霊ってさぁ」

本当にいるのかなあ、と独り言のような問いかけが続いた。

「いません」

七海は言い切る。
この世にいるのは呪霊ばかりだ。不思議なことの説明は、それで一応ついている。そんなことは彼女も理解しているはずだった。

「もしいたとしても」

少し間を置いて、先を続けた。
幽霊なんて曖昧な存在に、この同級生がどんな希望を託したかったか、七海にはわかったからだ。

「……灰原は、そんなものにはならないでしょう」

あきらは外を見つめたまま、そうかもね、と寂しそうに呟いた。