※過去編
久しぶりの人間から連絡があった。
任務に行った先の村で住人を皆殺しにし、自分の両親にまで手をかけたと噂の特級術師が、何を思ったのかあきらに会いたいのだという。いつか仕事で一緒になったときに渡していた電話番号を使って、待ち合わせの約束を半ば無理矢理取り付けてきた。
応じた理由は単なる好奇心だ。記憶の中の夏油は優等生然としていて、傍には笑いあう友人もいて、ちょっと憎たらしいくらいだったのに、それがどうしてそんなことになったのかと、あきらはちょっと不思議だった。
元々呪術師からも呪詛師からも仕事を請け負うあきらだから、障害がない、というのも大きい。
「お久しぶりです」
にっこりと外面のいい微笑みを向けた夏油はやっぱり記憶の通りで、だがしかし少し痩せた気がする。高専の制服は着ていない。だぼっとした楽な服で、夏油はそこに立っている。
「うん、久しぶり。で、その子達は?」
その後ろに隠れるようにしている子供二人を、あきらは顎で指して尋ねた。
「──私の家族です」
それってあんたが殺したんじゃなかったっけ。
とは思ったものの、優しく二人の頭を撫でる夏油と、それを聞いて傷だらけの顔をぱあっと輝かせる子供たちに水を差すような真似ができるほど、あきらは性格が悪くない。どうやらこの子ども達が、夏油の離反の一因らしい、ということをあきらは察した。
「私に何の用なの」
自販機で二人分の缶ジュースを買った後、あきらは早速本題に入った。少し離れたベンチに座り、ジュースをちびちびと飲む子供たちを見ながら、夏油が口を開く。
「禪院甚爾、という男を知っていますか」
「……まあね。昔馴染みだよ」
ていうかそれもあんたたちが殺したんじゃなかったっけ、という言葉はまたも口に出さないでおくことにした。夏油の顔が真剣だったからだ。
「呪詛師の仲介役って担当制らしいですね」
「……信用が大事だからね。例外はあるけど」
「一年ほど前の星漿体暗殺で、彼の仲介役をしていた人間をご存知ですか」
「それなりに」
まさか今更復讐でもするのだろうか、と眉を顰めたあきらに、「紹介してもらえませんか」と夏油は事も無げに切り出した。
「……どうして?」
「仕事の仲介をお願いしようと思っています」
できれば知恵も貸してもらいたい、と続ける。ますます深くなるあきらの眉間の皺を笑って、夏油が続けた。
「あの子達を、それから今後増える私の家族達を守るには力と金が必要だ。ならやるべきことは決まっている」
「……」
「お願いします。高遠さん」
にっこりと、愛想のいい笑顔を見て、あきらは思いっきり顔をしかめた。目を逸らし、貧乏揺すりをして髪をかきあげ、ハア、と大きな溜息をつく。
「……少し時間ちょうだい。連絡付けるのに手順が要ると思う」
「はい」
「その間私の家を使っていい。こないだ他人名義で買ったとこがあるから、そこ使え。気づいてるだろうけど、アンタのこと追ってる高専の人間はそれなりの数いる」
「…………」
驚いた顔で固まった夏油を、何その顔、と睨みつけると、夏油が視線を逸らした。
「いえ。そこまで協力してくれるとは、思っていなかったので……」
「恩売って損はないでしょ」
何せ特級術師だ。
あきらでは到底比較にならない力を、この男は持っている。それに。
「あの子達の怪我見れば大体の事情はわかる」
「……なるほど」
「勘違いしないでね。あんたの選択が正しかったとは言わない。けどもうそれしかないと思ったなら、勝手にやればいい。止める権利なんて私にはない。ただ」
言葉を切る。
言うか言わないか少しの間逡巡して、結局あきらは口を開いた。
「──残念だよ、夏油。本当に、心から」
以前任務で一緒になったときの、同級生とじゃれ合う夏油の笑顔を思い出す。
一人になってしまった少年は、守ると決めた家族を愛おしそうに見つめながら、そうですか、と答えた。