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大好き

呪術師は常に人手不足。明日は日曜日だと訴えてみても呪霊が帰ってくれるわけもなく、あきらは呪霊蔓延るどこかの現場に連れて行かれることが決まっている。
というわけでもう寝るか、と部屋の電気を消して少し経った頃、コンコン、という控えめなノックの音を聞いた。

「……硝子?」

同級の友人だとあたりをつけて、目を擦りながらドアを開けたが、そこには誰もいない。と思ったら。

「あきらお姉ちゃん」
「え?」

呼ばれて視線を下げると、丸くて大きな瞳が二対、あきらのことをまっすぐに見上げていた。
菜々子と美々子だ。
半年程前に夏油が連れてきて、高専で預かっている双子の少女は今日も仲良く手を繋いでいる。揃ってパジャマで、美々子はいつも抱いているぬいぐるみに、この間夜蛾に作ってもらったらしいナイトキャップを被らせていた。

「ど、どうしたの?」

驚いて尋ねると、二人はぷうっと頬を膨らませる。夏油は?と尋ねたらもっと膨らんだ。
夏油が出張から帰ってきたのは今日の夕方だ。二人は自分たちを助け出してくれた夏油のことを、様付けまでして格別に慕っているから、不在の後などは特にべったりになる。今夜もきっと一緒に寝るんだろうと思っていたので、硝子もあきらもこの子たちを部屋に連れて来なかったのだ。

さわり心地のよさそうな頬をつつきたいのを我慢して、もう一度どうしたのかと聞くと、菜々子が不満げに口を開いた。

「夏油様、今日は悟お兄ちゃんと映画見るんだって」
「映画?」
「子どもは……見ちゃだめって」

悟お兄ちゃんが、と途切れ途切れの美々子の言葉を聞き終えて、あきらは溜息を吐く。
ガキは大人しく寝てろとか必要以上にからかう五条の姿はあきらの想像でしかないが、多分そう遠くもないだろう。想像の中の五条にちょっと呆れてから、あきらは小さな頭にそれぞれ手を置き、「じゃあ私と一緒に寝よっか」と笑いかけた。二人がうん、と頷く。

あきらのベッドは大きめだし、美々子も菜々子もまだ小さいので、三人で寝ても平気だ。大人しく並んだ二人の横に寝ころび、布団を被る。上から胸のあたりをぽんぽんと叩いてやると、美々子も菜々子も安心したような顔をした。随分性格の違う二人だが、こういう時の顔はよく似ていると思う。

「……でも、二人ともよく五条に譲ってあげたね」

偉い偉い、と誉めると、まだ少し不機嫌らしい菜々子がそっぽを向いた。

「……だって」
「ん?」
「夏油様、悟お兄ちゃんのこと好きだから」
「んん!?」
「親友だって……夏油様、言ってた」
「あ、ああ、そういう意味」

少し勘違いして慌ててしまったあきらには気づいていないようで、菜々子が続けた。

「だからたまにはゆずってあげるの。ね、美々子」
「うん……菜々子……」
「…………」

夏油と五条が親友だから。

だから多少五条が大人げなくても、二人は大好きな夏油と過ごす時間を、譲ってあげたのだという。

あきらは少しの間きょとんとして、それから小声で笑った。不思議そうに見てきた二人の頭を、満面の笑みのままよしよしと撫でた。
 

**
 

「──二人ともさぁ、もしかしたら五条より大人なんじゃない?」

翌朝、あきらは昨日の出来事を張り切って教室で報告した。
だってそうだろう。好きな人の気持ちを思いやるというとても大事なことが、二人にはちゃんとできているのだ。あの年で。

「私たちの育て方がよかったね」
「だよね〜」

まだ少し眠たそうな硝子と言い合っていると、照れくさいような、困ったような顔で笑う夏油が「二人の、なのかい?」と割り込んできた。
基本二人は夏油にべったりだが、風呂とかご飯とか、細々した世話をしているのは同性である硝子やあきらなのだ。あまり外に任務に行かない硝子は特に。そう言うと夏油もまあそうか、と頷いた。

「よかったじゃん夏油様、美々子も菜々子もまっすぐ育ってるよ。五条と違って」
「…………オマエらなぁ」

ジト目で硝子を睨む五条は、何故かバツの悪そうな顔をしている。だから昨日のあきらの予想は、きっと当たっているのだろう。力いっぱい美々子と菜々子をからかったのに違いない。

「五条、次はあの子たちに譲ってあげなよ」

笑いまじりにあきらが言うと、五条はそのままそっぽを向き、わかってるっつーの、と拗ねたような声を出した。