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みみなな、学校へ通う

「何かあったらすぐ電話するんだよ」

色の違う二つの頭を見下ろしながら、あきらは真剣な声で言い聞かせる。
うん、と頷く二人に、横から五条が「変なオッサンが近づいてきたら急所攻撃して逃げんだぞ」と言葉を重ねた。

「きゅうしょってどこ?」
「え?……目とか?」
「相手が男ならもっと効果的なところがあるよ」
「コーカテキ?」
「バカ硝子やめろ」

その効果的な急所とやらを指さそうとした硝子を、五条が慌てた様子で止めた。わちゃわちゃとうるさい年上たちに、美々子と菜々子はきょとんとした目を向けていた。

「ホントに大丈夫なのこれ」
「大丈夫だと思うけどねえ」

あきらと夏油は顔を見合わせて苦笑している。

 

美々子と菜々子が、小学校に通うことになった。

時期的な事情も精神的な事情もあって、幼稚園にも通わせず高専でばかり過ごさせてしまったが、やっぱり日本に住んでいる児童として義務教育は受けねばならない。
本人たちも随分落ち着いたし、ちょうど小学校入学の年でもあるしということで、春から二人を麓の小学校に通わせることになったのだ。
身ひとつでこちらに来た二人は学用品も当然持っていなかったので、必要なものはお祝いがわりに高専のみんなで揃えた。命を懸けているかわりに、収入が多いのが呪術師のいいところであるから問題はない。学長始め高専によく顔を出す呪術師、補助監督その他からのカンパもあったから、寧ろお金は余ったくらいだ。
夏油だけが同行を許された入学式は昨日だった。今日は初めて、美々子と菜々子が二人だけで小学校に行く日である。
だからあきらたちは、ぞろぞろと登校前の二人を囲んで、あれやこれや言い聞かせている。

「防犯ベルは?」
「ないけど、学長が呪骸を持たせてる」
「え?……ホントだ」

夏油の言葉を聞いて目を遣ると、ピカピカの赤いランドセルの横にかわいいんだかキモいんだかわからないぬいぐるみがぶら下がっていた。これが原因でいじめられやしないか、と少し訝しく思ったが、込められている呪力からして大抵の不審者からは身を守れそうなのでいいだろう。何よりも大事なのは、二人の身の安全である。

「いじめられたらちゃんと言えよ」

五条がそう言って二人の頭を強めにかき回した。嫌そうな顔をした菜々子達が、たっと逃げて夏油とあきらの後ろに隠れる。

「あ、あと好きな男の子できたら教えてね」

ぐちゃぐちゃになってしまった髪を整えながらあきらが笑うと、隣に立つ夏油が同じく笑顔を浮かべて、「そうだね。確認しないといけないからね」と続けた。

「……なんか怖くない?」
「殺す気なんじゃねえ?」
「はは、まさか」

硝子と五条が小声で言い合うのを聞き逃さず、地獄耳の夏油が笑う。しかしその声がちっとも笑っていないのに気づいて、あきらはうわあ、と思った。