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実習、踏み台、日頃の恨み

※学生五条

 

「まだいるじゃないですか」

ふと気配を感じて空を見上げると、魚に似たフォルムのよくわからない生き物がふよふよ宙を泳いでいた。
空を泳ぐ魚なんてものは勿論普通の生き物ではないので、あれは明らかに呪霊だ。多分低級。

外の担当だったはずの先輩を見ると、「弱すぎて気づかなかった」と悪びれもせずに言う。その隣に立って、同じく呪霊を眺めていた夏油に視線をやったら、にこりと微笑まれた。取り込むまでもない呪霊のようだ。何にしろ二人とも、自分でどうにかしようという気がない。

「……まあいいですけど」

言いながらあきらは、自分の装備を思い返した。
今回は飛道具になりそうなものは持ってきていない。生憎近くに足場に出来そうな建物も木もない。ここにいるのは目の前の先輩二人だけだ。
いや。

「……」

背の高い、先輩が二人いた。

あきらはもう一度二人を眺めて、それから普段のことを思った。
時々コンビニや自販機でお菓子やジュースを奢ってくれる夏油先輩。時々コンビニや自販機でお菓子やジュースを買ってこいと言ってくる五条先輩。頼んだお土産をきちんと買ってきてくれる夏油先輩。お土産を買ってこないとうるさい五条先輩。あきらが冷蔵庫に置いておいたアイスを勝手に食べる五条先輩。勉強を教えてくれるものの、いつも一言余計な、五条先輩……。

「五条先輩」
「ん?」
「肩、貸してくださいね」
「は?」

返事も待たずにあきらは数歩離れて、助走をつけた。目を見開いている五条の目前で地を蹴り、高い位置にある肩を踏みつける。そのまま宙高くに飛び上がり、空中で体勢を変えて、射程に捉えた呪霊を斬り祓う。バフッと気の抜ける音がした次の瞬間には、軽い音を立てて着地していた。

「おま……っ!」

一仕事終えて戻ってきた後輩を、しゃがんだ状態で睨みつけ、五条が青筋を立てる。結構痛かったらしい。夏油は口を手で押さえて顔を背けていた。多分笑っているのだろう。

「いつものお礼ですよ」

あきらがしれっと言う。

「ふざけんな!」

五条は青筋をもう一つ増やして叫んだが、あきらは全く怖くなかった。