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五条ときさらぎ駅に行く

※学生時代

 

たまたま補助監督がつかなかった。
実習で呪力を大方使い果たしたせいで眠気が限界だった。帰り道の途中で耐えかねて後はタクシーで帰ろうよと同行の五条に言ってみたが、あと一回乗り換えすれば寝てても着くんだから別に電車でいいだろと反論された、言い返す気力も眠すぎてなかった。

とはいえ。

「……五条」
「お、起きた?」
「ここどこ?」

がたん、と一際大きな揺れのおかげで目が覚めた。いつの間にか借りていたらしい肩から頭を離して、あきらはまず霞む目を擦る。
見えているものとか肌に感じる気配とかを寝ぼけた結果の気のせいにしようと努力する横から、「電車だけど」と機嫌のいい五条の声がした。あきらが動きを止める。

「……どこ行きの?」
「多分きさらぎ駅」
「…………」

だからどこだよそれは!!
明らかに自分たちが暮らす高専のある駅ではない。それどころか聞いたこともない。というかきっとそんな駅は、この日本のどこにもないのだろう。何故ならさっきからガタンゴトンとごくごく普通の電車のように動いているこれには呪霊の気配が満ち満ちているからだ。
向かいの窓を流れる外は真っ暗で月もない。
いくら高専のあるあたりが田舎だと言っても、さすがに街灯くらいはポツポツあるし、何よりこんなに真っ暗になるまでかかるような距離ではなかった。
じろり、と隣に座る整った顔を睨み上げると、ちっとも堪えていないらしい五条は場違いに明るく笑う。

「乗り換えの時に向かいのホームにこの電車が止まってたんだよ。で、乗ってみた」
「…………乗ってみた、じゃないでしょ!?なんで私まで巻き込むの!?」
「だってオマエ置いていくわけにはいかねぇだろ」

そんな常識的な判断ができるなら、どうしてもう一段階上の乗らない、関わらないという選択ができなかったのか理解に苦しむ。
額に手を当てたあきらがハァーと大きく息を吐いたちょうどその時、車内放送がかかった。次は、きさらぎ駅……きさらぎ駅です、とノイズのかかったような掠れた声が告げている。
隣の五条のテンションが明らかに上がった。「ホラ!きさらぎ駅!」とはしゃいでいる。
呆れたあきらがだからなんなわけ?と冷たく聞いた。

「ハァ?知らねーの?きさらぎ駅っつったらアレじゃん」
「知らないよこっちは何にもさあ」
「何キレてんだよ」
「任務でバテてるところに意味不明で不要な呪霊の領域連れてこられてキレない術師いると思う!?馬鹿じゃないの!?」

電車が減速しだした。
あきらはぶつくさ言いながら、ケースに仕込んでいた呪具の組立を始める。とりあえず何が起こるのか予測がつかないので、用心はできるだけしておかなくてはならない。

五条はずっと機嫌がいい。新しくできた話題のお店とか、あるいはずっと行ってみたかった観光名所とか、そういう場所に念願かなって今から足を踏み入れます、みたいな顔をして、微かに鼻歌まで歌っている。全く悪びれた様子がない。

「大丈夫だって、俺がいるんだし」
「…………」

その通りだろうと思えてしまうのがまたムカつくところだ。青筋を立てて自分を睨むあきらに向かって、五条は自信満々の顔で笑った。