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京都校の特級と五条

※学生時代

 

京都校の特級は一般出で気が弱い女であり、他のそれと違って御し易いと嘲笑うような老人たちの噂は聞いていた。
他の特級は仕事もろくに受けずに海外をプラプラしていたり、気分次第で言うことを聞いたり聞かなかったり、命令をいいように曲解して済まし顔をしたりと自由な者が多いから、操りやすい手駒が手に入ってよっぽど嬉しかったのだろう。
特級術師、単独での国家転覆が可能な力を持つと認定しておきながら、同じだけ蔑んでいるのだからおかしな話だ。でも畏怖とはもしかするとそういうことを言うのかも知れなかった。

 

「……オマエさぁ」
 

年に一度の交流会。
いざ目の前にした噂の特級はその話の通り気の弱そうな女で、五条の前にひとり立ちながらも暗い顔で下を向いていた。五条の瞳には小柄な身のうちにこれでもかと渦巻く呪力が見えるから、余計にその卑屈な態度が癇に障る。
五条の苛ついたような呆れたような声を聞き、薄い肩がびくっと跳ねた。か細い声で、さっき高遠あきらと名乗った女生徒がなんですか?と尋ねてくる。

「特級なんだろ。強いんじゃん。何をそんなにビビってんだよ」
「……」

自分の力が制御できなくて怖いとかそんな雰囲気ではない。おそらく五条のことを恐れているわけでもない。
なのにあきらは縮こまって、馬鹿みたいな上の指示を多分唯々諾々と聞いている。たとえば今、明日の個人戦前に東京校の主力をできるだけ痛めつけておけとか、そういった命令に。

「もっと好きにやればいいだろ」

どうせ誰にも止められないんだからさ、と続けるとあきらの肩がぴくりと動く。今度は怯えたようでもなく、ただ五条の言葉に反応してのことだった。

「本当に」

顔は下を向いたまま、じわりじわりと濃密な呪力が滲み出る。いいのかな、と、暗闇で迷う子どものような声が続いた。

「いーんだよ、できんだから」

あきらがゆっくりと頭を上げる。眉尻の下がったまだまだ不安そうな顔へ、「どうしてもやりにくいんなら東京くれば」とまるで悪戯にでも誘うようにニヤリと笑った。