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親戚の子供と甚爾

「伏黒甚爾。一応オマエらの体術指導担当だ」

術式を持たない自分のことをまるで猿か何かのように扱う実家から飛び出して東京の呪術高専に入ったら、長らく姿を見ていなかった親戚の男がいた。
名乗るなりだるそうに欠伸をしたその男は間違いなく数年前に蔵の一つと小隊を潰し、力尽くで家を出て行った従兄弟の禪院甚爾であり、あきらはそれまで渦巻いていた呼び出しておいて一向に練習場に来ない教師への不満などを頭から吹き飛ばして、

「甚爾くんじゃん!!」

と思わず大声を上げた。
呼ばれた男はあぁ?と片眉を釣り上げると、しばらくあきらの顔をじっと見た後、ああオマエかと一人納得している。どうやらすっかり忘れていたらしい。

「なんで高専いるの!?」
「悪いか」
「似合わねー!!」
「…………」

出て行った後の足取りについて、実家では当然つかんでいたのだろうが、あきらのような立場の人間には降りてきていなかったので全く知らなかった。
どこぞで女でも転がしてフラフラ生きているんだろうとは思っていたが、まさか高専にいるなんて。似合わないにも程がある。
突然興奮気味に騒ぎだしたあきらを見て、同級生三人がキョトンとした顔をしている。

「何?知り合いってこと?」
「親戚だろ。禪院っぽい顔してるし」
「へー、禪院家の人ってこんな感じなんだ?」
「結構多かったはず。まーたまにあきらみたいなのもいるけどな」
「なんか言い方引っかかるんだけど、それは置いといて」

甚爾くんホントなんで高専いんの!?とあきらは大きな声で問いかけた。

「まともに働くなんて信じられない。普通に呪詛師まがいのことしてると思ってた」

そこまで?と首を傾げている同級生たちのことはお構いなしで、あきらは真剣な顔で考え込んでいる。「ていうか伏黒って……えっ、まさか結婚?甚爾くんが?」気づかなくていいことにもやっと気づいてしまったようで、眉間に皺を寄せてブツブツと呟いていた。
いい加減面倒になってきた甚爾は、はーとやる気のない息を吐いた。自分が紹介しろと頼んだとはいえ、早速後悔の念が芽生えている。が、家で待つ二人の顔を思い出し、なんとか気持ちを切り替える。
この際あきらは無視だ。
様子のおかしい同級生を怪訝そうに見ている学生たちに向かって、一つ咳払いをする。

「あー……改めて、伏黒甚爾だ。体術の指導担当ってことらしいが、ついでに各種ギャンブル、あと女の口説き方も教えてやるぞ」

最後ににやっと笑ってみせると、あきらがすかさず「甚爾くんギャンブル全然ダメじゃん」と余計な突っ込みを入れてきた。