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さしすに助けられる

※過去編軸

 

久々の四人揃っての実習で、正直言って気が抜けていた。呪霊の領域に入り込んでもなお軽口を叩きあっていたのだからバカすぎる。自分は五条や夏油とは違う、平凡な呪術師でしかないのだともっと心に刻んでおくべきだった。

背後に立った気配に気づいた時には手遅れだった。

脇腹から突き出てきた化け物の爪が、自分の血に濡れて赤くなっている。あーこれ死んだと妙に冷静に考えたのを最後に、あきらの意識はぷつんと途切れた。

 

………………。
…………。
……。

「……うわぁっ!!」

飛び起きて叫んだのと同時に脇腹に激痛が走り、あきらはしばらく悶絶した。痛みに耐えるために握りしめたのは白いシーツで、シーツがあるということはここはベッドの上であり、そこでやっと、今自分がいるのが見慣れた医務室だということに気がついた。まだ痛む脇腹を抑えつつ、空いた手でなんとなくぺたりと自分の頬に手を当てる。

「い、生きてる……?」
「あ、起きた」
「硝子!」
「ねぇ、あきら起きたよー!」

仕切り用のカーテンを開けてこちらを覗いた硝子が、肩越しに振り返って呼びかける。するとすぐにその後ろから二つの大きな影が顔を出し、「よぉバカ」と片方は不機嫌に、片方は貼り付けたような笑顔を浮かべて「よく眠れたかな?」と嫌味を言った。

「お、おかげさまで……」

あきらは顔を引き攣らせて、弱々しく答える。自分がバカだった自覚はあるので、それくらいしか返す言葉がない。

ふう、と息をついた夏油が簡単にあの後に起こったことの説明をしてくれた。
五条が咄嗟にあきらの体を引き寄せて呪霊の二撃目を回避し、夏油がすかさず呪霊を仕留め、硝子が即座に反転術式で処置をしてくれたのだそうだ。それでも完治までにはしばらくかかるから安静にしろ、黙って寝てろ、反省しろバカ、ということらしい。

「……硝子がいなかったら死んでたよ」
「はい……」
「弱いくせに油断しやがって」
「仰るとおりで」
「貸しだからね」
「わかってるって」

三者三様にかけられる言葉にしおらしく答えながら、あきらはとりあえずこれ以上体に負担をかけないよう、ゆっくりとベッドに寝転がった。布団を肩まで引き上げて、立ちっぱなしの同級生たちに笑いかける。

「助けてくれてありがとね」

苦笑したりため息をついたりそっぽを向いたりと反応はそれぞれだったが、わかりやすく空気が和らぐ。
と思ったらすぐ、そういや腹が減ったと、腹に空いた穴がまだ塞がりきらないあきらを置いて、みんなあっさり出て行ってしまった。
振り向きもしないんだから薄情なものだ。

残されたあきらが別にいいんだけどさーと多少不貞腐れていると、カーテンがまたシャッと軽い音を立てて開く。
そこには手に替えの包帯を持った医務室の先生が立っていて、何が楽しいのかくすくす笑っていた。

「……どうしたんですか」
「あのねぇ、あの子達、あなたが寝てる間、ずっと医務室から離れなかったのよ」
「…………そうなんですか」
「そうなんですよ」

いい友達ができたね、と本当に嬉しそうな声で言われ、何と返していいかわからなくなってしまったあきらであった。