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女の子になった五条

※過去編軸

 

なんか喉が乾いたな、と思った。部屋の冷蔵庫を覗いても特に何もなく、水を飲むのも味気ない気がしたので、外の自販機に買いに行こうと財布を持って部屋を出る。するとちょうど隣の部屋のドアも開く音がして、同級生の家入硝子が顔を出した。

「どっか行くの?」
「自販機。甘いもの飲みたくて」
「私も行こうかな」
「暇してた?」
「んー」

伸びをした硝子が寝てた、と答える。今日任務を当てられたのは五条と夏油の二人だけで、あきらたちは留守番だったから、お互い暇だったのだ。
後でゲームでもするかあなどと言いながら階段を下りて、共用スペースを通りかかる。まだ夕方にもなっていないくらいだし、誰もいないだろうと思ったそこに、あきらたちは意外な人影を見た。

「夏油、帰ってたんだ」

硝子が言ったとおり、それは任務に出掛けていったはずの夏油だった。電気がついていない、薄暗い共用スペースのソファーに座って、唇を引き結んでいる。なんだなんだ様子がおかしいぞ、と顔を見合わせた女子二人は、とりあえず一旦壁際のスイッチで電気をつけた。こちらに気づいた夏油が顔を上げる。

「何してんの?いるなら電気くらいつけなよ」
「硝子、あきら」
「ていうか五条は?今日の実習、二人で行ってたよね?」
「それが……」

夏油は目を瞑り、何かを堪えるような表情をした後、真面目な顔を作る。
口を開きかけたその時、硝子が「うわっ」と声を上げた。

「びっくりした。この子誰?」

硝子が瞳を大きくして視線を投げ、そこで初めて、あきらは夏油の向かいに誰かが座っていることに気がついた。

白い髪の女の子。

ただでさえ小柄なことに加えて、膝の上に腕を置き、前に体を倒しているからソファーの背に隠れて気づかなかった。横に回ったあきらたちが自分に注意が向けたのに気づいたのか、白い髪の隙間から、輝く青い瞳がちらりと視線を投げてくる。

「もしかして五条家の人?」

カラーリングが余りにも、慣れ親しんだ同級生と同じだったので、あきらは夏油にそう尋ねた。他の五条家の人間が五条と同じなのかは知らないが、他に心当たりもなかったのだ。
えーっと、と夏油は歯切れの悪い返事をする。
不思議そうに女の子を見つめていたあきらが、はっと気づいて言った。

「ていうかなんでそんな格好してんの!?」

女の子は何故かぶかぶかのシャツを着ていた。
肩幅が全然足りないせいで服がずり落ちて、白い肩が見えている。裾から覗く細い足は、靴下もなにもはいていなかった。肩を見るにまさか下着もつけてない……?と思い至り、夏油に非難じみた視線を向ける。
小学生くらいとはいえ女の子を、こんな状態で放置している神経がわからない。

「はー……事情はわかんないけど、とりあえず、服どうにかしようよ。私の貸すし」
「うーん……それはありがたいんだけど」
「ね、お姉ちゃんの部屋行こうか。お名前なんて言うの?」

子供を怖がらせないようにとしゃがんだあきらが、まだ顔を伏せている女の子に笑いかける。

「その子ねえ」

堪えていた何かをとうとう耐えられなくなった夏油が、ぷっと笑って言った。
女の子が視線を上げる。びっくりするほど整った幼い顔が、この上なく不機嫌そうに眉間に皺を寄せていた。

「……悟」
「え?」
「悟なんだよねえ、これが」
「はあ!?」

口をぽかんとあけたあきらが夏油をばっと振り向くと、もう完全に笑っている夏油が面白そうに事情を説明した。

「今日の実習でね、ちょっとしたミスがあって。悟が呪いを受けたんだよ」

そしたらこうなっちゃって、と戯けた夏油を、女の子改め女の子になったらしい五条悟が睨み上げた。むすっとしていて愛嬌なんて欠片もないのに、さすがというかなんというか、どんな表情をしていても整っている。中身が五条だと思うと微妙な気持ちだ。

「……硝子、なんとかならないの」

あきらが尋ねると、硝子は「怪我じゃないからねえ。効果切れるの待つしかないんじゃない」と暢気に言った。それを聞いた五条が頭を抱えてうずくまる。
 

「なんっでよりによってこんな……ちんちくりんに……身長どこいったんだよ……」
 

どうやら嘆きのポイントは、女になったことそのものよりも、小さなかわいい女の子になってしまったことらしい。
笑ってやればいいのか同情すればいいのか判断に困り、あきらは困ったように硝子と顔を見合わせた。