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生徒と再会※

※236話前提

 

「あーっ!」
 

ひとしきり笑っていたところに大きな声が聞こえたと思ったら、高専の制服を着た女子が一人、こちらを見て大口を開けていた。椅子に座ったままの五条を指さすなり、「負けたんだ!あんなに自分のこと最強って言ってたのに!」と耳に痛いことを言う。つい苦虫を噛み締めたような表情になる五条を見て、隣に座る夏油がくつくつと喉を鳴らして笑った。

「オイ、人のこと笑えねぇだろ、笑うな」
「いや、私はそういうの卒業したから」
「オマエのは中退っつーんだよバカ」
「五条先生!」

夏油を睨む間に距離を詰めたあきらが、目の前に仁王立ちをしている。

「立って!」
「……」

さきほどまでの湿っぽさも穏やかさも何もかもを消し去るような口調で、あきらは五条に命令した。
なんだかんだ生徒には弱い。
五条はむっとしながらも、ゆっくりと立ち上がる。
その様子を見た灰原が「えっすごい!」と無邪気に驚き、七海が「学生相手にはいつもあんな感じでしたよ」と呆れたような声で言った。

「後ろ向いて!」
「ハイハイなんなわけ」

重ねて要求され、やけくそ気味に従う。
そうしてあきらの言う通りに向きを変えた瞬間、バシッとなかなか強い衝撃が背中に走った。

「私もやりたかったんだーこれ。はーすっきりした!」
「…………」
「お疲れ先生!じゃあね!」

そう言うとあきらは満足そうに笑い、もう用はないとばかりにあっさりと、どこかへ歩いて行ってしまった。
随分と自己完結型の性格をした生徒だな、と夏油は思う。
その後ろ姿を面白そうにしばらく眺めたあと、背中を叩かれた姿勢のまま固まっている五条に気づいた。

「どうした?」
「…………なんかさ」
「うん」
「やっぱり……」

五条が言葉を切った。

生徒たちと最後にしたやりとりを思い出しているのかもしれない。その時芽生えた感情も、かけられていた期待も。

言葉を探すようにしばらく黙り込んだ後、夏油の方は向かないまま、五条はぽつりと言った。
 

「勝ちたかったな」