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五条と後輩の実習

※過去編軸

 

地元では心霊スポットとなっている小さな家で、人死にが立て続けに発生したのだそうだ。生き残りはおらず、状況がわからない。とりあえず二年の五条と共に派遣されてはみたものの、昼の間も夜も、呪霊の気配は何か膜を隔てた向こうにでもいるようにぼんやりとしていて、正体は掴めない。
となれば必要になるのが調査である。
被害者は半グレの少年達で、最近は学校にも通っていなかった。ならば必然、聞く相手も彼がつるんでいたような連中になる。

「ああ?んだよオマエら」

溜まり場になっている空きビルを探し出して乗り込んでみたものの、相手は最初から喧嘩腰だった。中にいる十人足らずの不良っぽい少年たちが、ゲームやら雑誌やら、別にこんなところでやらなくてもいいのにというようなことを放り出して、警戒したようにあきらたちを見ている。くちゃくちゃとガムを噛みながら、少し年上だろう男が代表としてガンをつけた。
少し前に出て、あきらを庇うように立っていた先輩が口を開く。

「……アンタらに聞きたいことあんだけど」
「聞きたいことォ?」

オマエらみたいなのに教えてやることなんざひとっつもねえよ、と嘲笑される。女連れで何カッコつけてんだかとか、二、三発殴ってもっと格好よくしてやろうかとか、周りの奴らが囃し立てた。
五条はそう大人しい方ではない。そして気性に見合う力を持っている。でもこういう場で人を脅すのがあんまり上手くないのだ。そういうのが上手い他の先輩たちは、揃って地方に出張中だった。
前に立つ五条の気配がぐわっと大きくなり、まずいと思ったあきらが慌てて前に進み出た。「あきら」と止めるように呼ばれたが、手をひらひら振って任せろと意思表示をしておいた。

「まあそう言わず」
「なんだよ嬢ちゃん、金でもくれんなら考えてやらないこともないぜ」
「生憎お金はないんですけど」

その辺に転がっていた空き缶を拾い上げる。こちらをニヤニヤと見ている男に向き直り、あきらは「本当に些細なことなんです」と完璧な笑顔を向けながら、その缶を何気なく両手で挟むと、そのままぐしゃっと潰した。

「え?」

目を丸くした相手に構わず、あきらは続ける。

「この間、あなたがたのお仲間が数人亡くなったでしょう」

その間にも手は止まらない。対して力が入っているようにも見えないあきらの手が、ちょっと前は缶だったものを、紙でも丸めるようにして弄んでいる。やがてスーパーボールよりももっと小さい、くらいの大きさになったそれを持って、あきらはおもむろに振りかぶる。

「えい」

言葉の穏やかさとは全く違う速度と力で投げつけられたアルミのボールが、目を丸くしている男の顔のすぐ横を通り、その先の壁にめり込んだ。

「…………」

もちろん呪力込みの芸当だということは、あきらと五条にしかわからない。
息を呑んで様子を見守っていた半グレ集団が、壁を見、そしてあきらを見てこぼれ落ちんばかりに目を見開いている。

「……で、教えてくれますか?」

ダメ押しで首を傾げた時点で、あきらの勝利は確定していた。

 

ひとこと
確か脅し下手な五条とそれなりにうまい夢主が書きたかったんだと思う