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コンビニに行く虎杖

実習を終えて、補助監督の人に寮まで送って貰ったところでようやく、虎杖は腹が空いているということに気づいた。
部屋につき、最近よく使っている日本刀を刀掛けに置く。あいた手で腹を撫でるとタイミング良くグゥと鳴いて面白い。

「悠仁、外行くのか」
「コンビニ行こうかと」
「ちょうどいい」

実習帰りの制服のまま、寮から出て行こうとした悠仁に声をかけてきたのは禪院真希である。共有スペースに置いてある大きなテレビ、その真ん前のソファーにゆったり腰掛けながら、真希がこっちを見ている。
他にも二年の面々と伏黒、真希の隣に陣取った釘崎が同じく視線を寄越した。

「ポテチ」
「虎杖、私アイスね」
「え~……」
「俺はカルパスな」
「たらこ」
「棘先輩はそれおにぎり買ってこいってことでいいの?伏黒は?」
「……コーヒー」
「ん、了解」

大して渋りもしない虎杖はいい後輩だった。
真希が「さっきあきらに頼み損ねたからな」と言い、そういえばもう一人の先輩がいないことに虎杖はようやく気づいた。

「あきら先輩もコンビニ行ってんの?」
「多分。俺らに見つからないように、ささっと」

なるほどそれは賢い。
ちょっと笑ってから、そのまま外に出ようと歩き出す虎杖に、上着くらい着ていきなさいよと釘崎から声がかかる。
確かに高専の制服だけという、この季節には寒い格好だったが、部屋に帰るのは面倒だし、大丈夫と答えておいた。

高専を出てしばらく歩くと、前から知った顔が歩いてきた。
先輩たちの予想通りコンビニに行っていたようで、手にはコンビニの袋を下げている。
コートにマフラーを顔が半分隠れるくらいまできっちり巻いて、それでも寒そうに目を細めているあきらは、自分と真逆の、寒そうな格好をしている後輩を見て「嘘でしょ……」と呟いた。

「あきら先輩、ちわー!」
「ちわーじゃないよ。虎杖、上着は?」
「え、取りに行くの面倒だから、いいかなって」
「はあ?」

信じられない、と言いたげにあきらは虎杖を見た。この表情には覚えがある。宿儺の指を食べたと聞いた人(たとえば釘崎)が向けてくる類のものだ。つまりドン引きというやつである。

「あんたどこ出身だっけ……」
「仙台」
「……そのせい?いや関係ないか」

はあ、とあきらが呆れたように息を吐いた。
と思いきやコートのポケットから億劫そうに手を出して、巻いていたマフラーを嫌そうに外していく。
そのまま少し背伸びをして、虎杖の首まわりに、ぐるぐるとマフラーを巻き付けた。困惑している間に先ほどのあきらと同じく口元まで隠れた少し暖かそうな自分ができあがり、虎杖は「大丈夫なのに」と少し困ったような、申し訳なさそうな顔をした。

「いいの」

あきらは寒そうだが満足そうだ。
ついでにとポケットに入っていたカイロもくれた。

「呪術師は体が資本なんだから、風邪には気をつけなさいよね」
「……アリガトーゴザイマス」
「よし」

とそのまま、虎杖がやってきた方向にあきらが歩き出す。
少し離れたころ、くしゅんと後ろから音がしたので、虎杖はこみ上げてきた笑いを我慢し、マフラーに顔を埋める。

「わ、女の子の匂いだ」

あきらの貸してくれたマフラーからは、ふわりと花のような、とてもいい香りがした。