ひょっとして夏油様は自分を嫌っているのかなあ、とあきらは考えることがある。連絡役は必要だからねと、最近連むようになった特級呪霊の根城に置いて行かれるようになってからは頻度がかなり増えた。
触られては駄目だよとか、相手の術式についてはおおざっぱな注意を受けているし、あきらの術式なら何かあっても逃げおおせることはできるので、まあ別に構わないのだが。
どちらにしろ夏油の命令ならば、あきらに断るという選択肢は存在しない。
他の家族たちがきっと思っていたように、あきらにとっても夏油は、世界で一番特別な人だった。
「お正月かあ……」
けれどまあ、虚しさがないわけではなく。
本来の所有者がいなくなったマンションの一室で、炬燵に入りながらあきらはため息を漏らした。
「駄目だよあきら、幸せが逃げる」
向かいで憂鬱の原因の一つが、面白がって声を掛けてくる。あきらは半目になって口を開いた。
「もう既に逃げてるんで。ご心配なく」
「ふぅん?」
小首を傾げる、子供っぽい仕草を特級呪霊、もとい真人はした。
「昔は楽しかったのになあ……」
二年くらい前までは賑やかだったのだ。信者たちの挨拶は余計だったけれど、家族がいて、みんなでおせちや鍋を食べて過ごしていた。
ごろごろ炬燵に入ってみかんを食べたり、晴れ着を着て初詣に行って、おみくじを引いたり。屋台でいろいろ買ってあげたり、買って貰ったり。
あの一件で、みんな離ればなれになってしまったけれど。
「正月ってそんなに特別なんだ」
なんだかんだあきらのぼやきを聞いていたらしい。案外人に興味があるんだなと、あきらは目を丸くする。
そういえば映画とか小説とか、そういったもので人間について学んでいると聞いたことがあったかもしれない。
「……特別というか、まあ、みんなで過ごしていたことが特別だったというか」
「へ~」
この呪霊も仲間と呼べるものを数体持っている。それならあきらの感傷を、ちょっとくらい理解していたりするのだろうか。
真人は少し、何か考え込むような仕草を見せた後、急に満面の笑みを浮かべた。
「いいこと考えたよ、あきら」
「……いいですよ、言わなくて」
「なんで」
「なんとなく」
呪霊の思いつきなんてろくなものじゃないに決まっている。
あきらの言葉に不満そうな顔をしたと思えば、やっぱり言うことにしたのか、真人はにっこりと笑って「初詣がしたいなら俺を拝んでいいよ」と言った。
「……ハア、なんで?」
「成り立ち的には俺も神っていうのと似たようなものだから」
「ハア、だからなんで?話聞いてました?」
納得は全然いかないが、ホラホラと促されあきらは渋々両手を合わせ、真人を拝む。
満足そうに笑う真人を見ながら、やっぱり私は夏油様に嫌われているんじゃなかろうか、という思考がもう一度、あきらの頭を過ぎった。