Skip to content

四人で閉じ込められた

※順平がいたりします。もしも。

 

最初に目を覚ましたのは悠仁だった。
その悠仁が隣で気を失っていた順平を起こし、順平は慌てて近くに横たわっていたあきらを見つけて揺り起こした。
頭を抑え、しかめっ面で起きあがったあきらは、ソファーに転がっている黒尽くめの男を見て溜息を吐き、「一旦ほっとけ」とこれまた彼を起こそうとしていた悠仁を止めた。

さて何がどうなっているのか。
どうして四人揃って見知らぬ部屋の中に転がっていたのかはわからないが、ここであきらが取り乱すわけにはいかない。
不安そうにこちらを見てくる二人を横目に、まずは室内を見る。
でかい図体でもなんとか寝転がることができるソファーがひとつ。ローテーブルがひとつ。大の大人が数人眠ることが出来そうなベッドが部屋の端にある。
出入り口となる扉に寄ってみたが、鍵がかかっているのか開けられない。窓も見あたらなかった。閉じこめられている。

「……気を失う前、何してたか覚えてる?」
「いえ……」
「俺も覚えてない」

尋ねてみたが収穫はなかった。あきらも同じく何も覚えていない。
奇妙な状況に眉を顰め、あきらは呪力を練り始めた。力ずくで出ることを選択したのだ。つかつかと唯一のドアに歩み寄り、拳を握ってドアに打ち付けた。

大きな音が鳴る。しかしドアが壊れる音ではなく、拳が跳ね返された音である。

「あきらさん、壊すなら俺やろうか?」
「……いや」

おかしい。呪術で守られているような形跡は見えない。あきらはもう一度呪力を練り、術式を発動した。
今度は建物の一つくらいは吹っ飛ぶくらいの威力を込めて。

「…………」
「駄目ですね……」

順平の言葉通り、ドアには傷一つもついていない。感覚的には五条の使う無限に似ている手応えのなさだ。

「どうしましょう……」

だがしかし、諦めるわけにはいかない。あきらには二人の子供を無事にここから出してやる義務がある。

眉尻を下げてこちらを見つめる二人に、あきらはなるべく壁側に寄るよう指示を出した。身を伏せるよう付け加える。
あきらの様子を伺う二人に背を向けて、あきらは扉に向き直る。最大出力で、出来うる限りの破壊をぶち込んだ。轟音が響き、衝撃波が狭い部屋の中を走る。うわっと悠仁が小さく声を上げた。しかし。

「わー、これでも駄目なんだ」

扉と向かい合うあきらの後ろ姿を悠仁が見て、感心したような声を出した。ドアにはやはり傷一つ無く、四人を閉じこめ続けている。

「何なんだろうね、この部屋」
「うーん、呪霊の仕業とか?」
「その割には呪力が感じられないよ」

壁近くまで下がったままの二人の会話を聞いているのかいないのか、「ちょっと考える」とあきらは難しい顔をした。五条が眠るソファまで歩き、邪魔な足を蹴飛ばす。

「痛っ!」
「うるさい、お前の仕業じゃないだろうな」
「えー、違うって」

起きていたのか、と順平と悠仁が顔を見合わせた。

「一番最初から起きてたよ」

よっこいしょと体を起こして、五条が口端を持ち上げる。

「僕も壊そうとしたんだけどさ、全然無理だったんだよねえ。やばくない?」
「……」

あきらの眉間の皺が一層深くなった。五条の口振りに苛ついたのではない。五条悟の術式をもってしても壊せなかったと、その一点に反応したのだ。破壊力の面で自分を大きく上回る五条でも無理なら、ここから脱出する手段は消えたも同然だった。
深刻そうに黙り込むあきらを見て、五条がもう一つ笑う。

「でも手がかりは見つけたよ。はい」

ポケットからぴっと取り出した紙を、五条はあきらに差し出した。四つ折りになっていて、中には何か書かれているようだ。
あきらは難しい顔のまま、その紙を受け取り、開いた。

「……はあ!!?」

と思ったら目を見開いて、紙の内容と五条を見比べている。どれどれ、と好奇心を抱いた悠仁と順平が近づいてこようとするのを、咄嗟に来るなと声を上げて止めた。

「なんで?」
「なんでもないから」
「なんでもなくはないですよね?」

言い訳が苦しい。むっとした二人に、五条が面白そうに口を開く。

「セックスしないと出られない部屋」
「五条!」
「らしいよー、ここ」

あきらの制止は鋭かったが、そんな程度で止まる男ではない。

「えっ……」
「なにそれ!!?」

未成年二人がまず驚いて、その後顔を見合わせ、ニヤニヤ笑っている五条と苦虫を二三匹噛み潰したような顔をしたあきらを見た。

「ってわけで、どうする?」
「……まだこれが本当かわからない」
「えー、でもさあ、僕でも壊せない部屋に、残されてた意志らしきものはこの紙切れ一枚きり。やってみるしかなくない?」
「……嫌だ」

大人二人が話す間に、子供二人は状況を理解し始めて、だんだん顔が熱くなってきた。
この部屋にいるのは四人で、女の人はあきらだけだ。大人の男は五条だけ。部屋を出るための手段がもしそれしかないなら、五条とあきらがその、そういうことをするわけで、それだけでも相当なのに、ここには他に部屋がない。つまり悠仁と順平の逃げ場がない。

「あきら」
「死んでも嫌だ!」

結構乗り気の五条に対して、あきらが断固拒否の構えを取る。先に我に返ったのは順平だった。二人の間に割って入り、あきらを後ろに庇うようにしてきっと背の高い五条を睨みあげる。

「ご、五条先生、無理矢理は駄目だと思います!」
「えー」
「そうだって先生、あきらさん嫌がってるじゃん」
「え、僕悪者なわけ?」

教え子二人に責められて五条はちょっと傷ついた。頬をかき、「でもじゃあどうすんの」と話が戻る。

「悠仁か順平のどっちかがあきらとヤる?」
「えっ」
「えっ!!」
「別に僕はそれでもいいけどね」

途端に狼狽える子供二人を無視して、どうする、と五条が黙り込むあきらに問いかけた。
あきらはまたしっかり間を取ると、やがて重い口を開く。

「順平。虎杖」

呼ばれた二人が混乱気味の顔であきらを見た。

「すぐ終わるようにするから、そっちの端っこで布団被って耳塞いでて。悪い」

あきらの表情は硬く、顔は真っ青だった。これから戦場に向かう兵士のような顔をしていた。