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硝子と閉じ込められる

※学生時代
 

「ふっざけんな!!!」

あきらは大声を上げながら、自分の愛用の武器である拳銃を唯一の扉に向け続けていた。
ドガンズガンと破壊の音は鳴り続けるが、扉の方はびくともしない。その後ろ姿を眺めながら、硝子は清潔なベッドに腰掛け、煙草に火を付ける。

「もう諦めたら」

声をかけてみると、あきらが振り向いて硝子を睨んだ。

「硝子も手伝ってよ!!」
「断る。多分無駄だし」

きっぱり言った硝子に、あきらがうぐうと獣のように唸って青筋を立てた。

「何なのこの部屋はぁ!!」

と改めて喚いている。

硝子とあきらがこの部屋で目を覚ましてから、まだ二十分ほどしか経っていない。
気がついたらお互い見慣れた呪術高専の制服を身に纏い、ベッドの上に転がっていた。どういう経緯でこんなことになったのかも全く思い出せない。

わかるのはただひとつ。

「……」

硝子は無言で、カーペットの上に落ちた紙の残骸に目をやった。
今はそのど真ん中にあきらが八つ当たりで撃った銃弾のせいでただのゴミだが、少し前までそれにはこう書いてあったのだ。

『セックスしないと出られません』

もちろん最初は質の悪い悪戯だと同期の二人なんかを思い浮かべたが、それなりに威力の高いはずのあきらの術式を以てしてもここから出られないことで、なんだか文言の信憑性が増してきた。
足掻く気にも慣れず、硝子の方は諦めている始末だ。誰とも知れない相手の思惑に乗るのは少々癪だが、この場合は仕方がない。

「あきら」
「……なに」
「いい加減諦めよう」

言い返そうと口を開いたあきらが、勢いで怒りを吐き出す前に、硝子は続けた。

「セックスくらい、いつもしてることだろう」

ちょっと場所が変わるだけじゃないか。

事も無げに言い放った硝子に、あきらが目を見開いた。
みるみるうちに顔が赤くなり、うわー!!っと叫んでその場にしゃがみ込む。硝子のばかっ!とくぐもった声が責めてきた。完全に拗ねていて、梃子でも動きそうにない。
まだしばらく出られないなと、硝子はため息を吐く。煙草が切れてしまう前に、無事に脱出したいものだ。