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悠仁と閉じ込められる

ふかふかのベッドの上、正座で向かい合っているというのに下を向き、シーツにところどころ寄っている皺なんかを悠仁は見ている。
あきらはそんな悠仁の態度にちょっといらだっていたので、「ねえ」と甘さのかけらもない声を投げかけた。びくり、と一度肩を跳ねさせて、こちらを見ない悠仁が応える。

「……なんでしょーか」
「さっさとやって出よう」

投げやりな提案に思わず真っ正面からあきらを見て、悠仁はダメだって!と叫んだ。あきらは眉間に皺を寄せて、「なんで?」と尋ねる。信じられない、と今にも聞こえてきそうな顔を悠仁はした。

「あきらさんさ、もっと自分のこと大事にしてよ」

ちょっと怒ったような口調だった。
あきらは片眉を跳ね上げて悠仁を見た。
なんだこいつ。いつもいつも周りがどんなに言おうが他人を優先して、自分のことを蔑ろにしているのは目の前の後輩の方だ。どの口が、と思う。

「大したことじゃないでしょ」
「そんなことねーよ!」

先輩への敬いとかなんとかを投げ捨てて今度こそ悠仁が怒った。そのくせ泣きそうな顔をするのだからどうしていいかわからなってくる。

「はー……」
「……」

ため息が出た。

セックスしないと出られないらしい、なんともくだらない部屋にあきらと悠仁が閉じ込められてから、それなりに時間が経っている。
どんなに術式をぶちこんでも崩れない壁と扉を持つ部屋になすすべがなく、何か手がかりはと探していたところに悠仁がそういうことの書かれた紙切れを見つけたのだ。動揺している悠仁の隙をついて、あきらがそれを取り上げた。
大きなため息を吐き、仕方ないからやってみるよと声をかけたらすかさず拒否されて、そこからやるのやらないのの押し問答だ。時間はどんどん過ぎていき、いい加減あきらも疲れていた。
ていうか悠仁もやりたい盛りの年なんだから、もっとラッキーとか軽い気持ちで引き受けてくれたらいいのに、とあきらは思う。

「悠仁」

あきらが口を開いた。さっきまでとは少し異なる、やわらかい声だったので、拗ねていた悠仁もつい「何?」と聞き返してあきらを見た。しかし視線はまだ、不満げにじっとりしている。

「別に自分のこと大事にしてないわけじゃないよ」
「はぁ?でも……」
「ここにいるのは悠仁でしょ」

悠仁が頭の上に疑問符をたくさん浮かべたのは、ほんの一瞬のことだ。
瞬く間に過ぎ去った思考の後、今度はボン、と音まで聞こえてきそうな勢いで悠仁の顔が赤くなる。ええぇ、と小さく戸惑いの声が漏れ聞こえて、あきらはふうと息を吐いた。

「他の誰かなら流石にやだ」
「………………本気で言ってる?」

こくりとあきらが頷くと、悠仁が顔を両手で覆って横に転げた。ほんと?とまだ言っているので本当ですと返してやる。
気を取り直した悠仁がいそいそと座り直し、姿勢を正してきっとあきらを睨む。

「嘘じゃないよね?」
「もちろん」

態度で示した方がいいのかと思って、あきらはそのまま自分の制服のボタンに手をやって、ぷちりと一つ目を外してみた。
悠仁の目が一層大きく見開かれ、ごくりと喉が鳴った。

「…………あの、あきらサン」
「ん」

先を促すと、随分長く間を置いて、顔を真っ赤にしたいっぱいいっぱいの悠仁が口を開いた。

「……………………俺が脱がせてもいい?」
「……………」
「……………」
「………………、フッ、」

こみ上げる笑いを抑え込み、いいよと言ってやるには、悠仁の真剣な顔は面白すぎた。