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五条に噓を吐く

夜にあきらが五条の部屋を訪ねてくるのは珍しいことではない。なぜなら二人は付き合っているからだ。特に理由もなくただ一緒にいたいというのは自然な欲求だし、あとまあ、そういうこともしたりする。二人とも若いので。
今日もそのつもりなのかと内心ガッツポーズで部屋に出迎え、机の前に座ったあきらはしかし、

「できちゃった」

と言いだしたので五条は飲んでいたお茶を吹き出した。こぼれたお茶を拭くことも忘れて、こちらを真顔で見ているあきらに驚愕の顔を向ける。

「っていうのは嘘なんだけど」
「……は?」
「今日の日付、思い出してみて」
「はあ!?」
「嘘だけどあり得ない話じゃないから、気をつけようね」

と言ってあきらは自分の分のお茶を飲む。
目の前の惨状にも、じっと非難がましく自分を睨んでいる五条にも、全く動じた様子がなかった。
ぶつぶつと文句を言いつつこぼしたこぼれたお茶をティッシュで拭きながら、五条はふと尋ねた。

「……もしさぁ」
「うん」
「もしホントにできたら、どうする」

あきらが少し考え込む仕草を見せた。しばらく間が空いて、そうだねえ、と口を開く。
 

「……もしかしたら、逃げるかも」

 

ひとこと
そして本当に逃げた。