息苦しくて目が覚めた。腹のあたりに圧迫感がある。
カーテンを締め切っているとはいえ部屋の中はうっすらと明るく、朝の訪れを告げていた。
ベッドサイドの時計を見ると、いつも起きるのより一時間ほど早い時刻を指している。まだまだ眠れる、けれども苦しい。
「んー…………」
唸りながら腹のあたりを見て、あきらはぎょっとした。眠気が一気に覚める。
「え、んん?」
白い頭にでかい図体。いつもの、全く小さくなんてない元通りの弟が、あきらの腹にしがみついて眠っていた。
道理で窮屈なはずだ。しかしあきらの苦しさにはさっぱり気づかず、悟はすうすうと、昨日と同じような安らかな寝息を立てていた。
「……」
恐る恐る触れた頭の大きさはさておき、手触りも一緒だ。おまけにあきらが撫でると表情が緩む。
「…………寝るか」
なんだかどうでもよくなってしまった。もう一度布団をかぶり直し、あきらは未だ腹のあたりにしがみつく弟を撫でながら、再び眠りについた。
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「……覚えてる?」
「…………おぼえてない」
「覚えてるよね?」
「覚えてねーよ」
弟がかわいくない。
目を覚まして飛び起きたかと思うと、悟はずっとしかめっ面で、ふんとそっぽを向いている。
シャツは着ていたけれど、ズボンはないから代わりに布団を巻き付けて、ベッドの上に鎮座していた。
夏油に服を持ってきてほしいと頼んでいるから、気づけばもうじき来てくれるだろう。
ふん、と鼻息荒く否定する弟の耳は赤かった。
いい年をして姉に面倒を見られた上一緒に眠っていたのがよほど恥ずかしかったと見える。
「小さい時はあんなにかわいかったのに」
「…………」
からかうような口振りで言うと、悟がじっとりとした視線を投げかける。
そのくせ何も言ってこないので、これはいいネタになるなあとあきらはほくそ笑んだ。
「そんなこと思ってなかったくせに」
「は?」
何のことだと眉を顰めた。
悟は一層苛立って、同じようにぎゅっと眉間に皺を寄せた。あきらをぎろりと睨みつける。
「置いていっただろ」
「はあ?」
悟の意図がよくわからない。何が言いたいの、と尋ねようとしたところで、タイミング悪く部屋の扉をノックする音が響いた。
弾かれたように立ち上がった悟がドアに駆け寄って、びっくりしている夏油に傑!と飛びかかる。
夏油が大きな手で顔面を掴み、悟を拒んだ。
「無事に治ってよかったよ、悟。それはそうとして今日は存分にやり返すからな」
「はぁ?何怒ってんの前髪の人」
「……この」
受け取ったズボンを手早く履いて、かわいくない弟はあきらのことを一瞥もせずにさっさと出ていってしまった。部屋の真ん中で呆然としているあきらに気付いて、夏油が声をかける。
「あきらさん、お疲れ様でした。大変だったでしょう」
「……い、いや。今よりずっといい子だったし、全然……」
尻すぼみのあきらの言葉に、夏油がそうですかと笑う。
「アイツも素直ではないですからね」
身内よりも理解しているようなことを、含み笑いの夏油は言った。