Skip to content

顎が割れていた。背中やら腕やらの打撲、肋の骨は数本折れていて、もう少しで内臓に刺さるところだったっぽいと曖昧ながらに怖いことを硝子は言った。その上術式による毒だ。耐性と力の差があるはずの夏油でさえまだろくに体が動かせない現状から鑑みると、あきらは容赦の一つもしていない。どういうつもりだったのかはわからないが、全力を持ってかかったのだろう、とそれだけは誰の目にもわかる。

「どう見ても殺す気満々って感じなんだけど」
「……」
「何があったわけ」

夏油の転がる医務室のベッドの側に座り、硝子は問いかけた。高専に戻ってきて次の日には、解毒、反転術式諸々の効果もあり目を覚まし、話せるようにもなったはずの夏油は、静かに硝子の説明と問いかけを聞いていた。天井を見つめるその顔は何の表情も映していない、ただ何かをじっと考えている。

硝子はハー、と息を吐く。

──夏油もだ。
あの後学長直々に呼び出されたあきらは、夏油に加えた暴行について、とうとう何も話さなかった。
あきらが理由もなくこんなことをする人間ではないことは、硝子も夜蛾も、あれだけ怒りを見せた五条でさえも、この高専で彼女と関わりがある全員が知っている。何かあるのだ。あるはずなのに、誰に何を聞かれてもあきらは目を逸らして黙秘するばかりだった。
被害者である夏油もそうだ。だから何もわからない。

「……あきらの処分、決まったよ」

ぴくりと夏油が反応した。
それに気づかない振りをして、いつも通りの気怠げな声で続ける。

「準一級の昇級内定取り消し。停学一ヶ月。謹慎。減給と始末書諸々、あと監視」
「……そうか」
「ホントにさあ、何があったわけ」

あの子たちのこと?と、ベッド脇の机に置かれる折り紙の鶴を見た。
美々子と菜々子、あきらが夏油とともに連れ帰ってきた子供二人が折ったものだ。傷が治り、精神的にも随分落ち着いた二人が、すぐるお兄ちゃんすぐるお兄ちゃんと足繁く夏油の元に見舞いに来ているのは硝子も知っていた。

「……最初見たとき、あの子達の怪我もあきらがやったのかと思った」
「それは違う」
「知ってる」

食い気味の否定に呆れた声を返してまた息を吐く。

「硝子」

夏油がぽつりと硝子を呼んだ。なに、と答えれば、一拍置いて、また夏油の声がする。

「……あきらと、話せないか」
「無理」

謹慎中なのだ。寮の部屋からはしばらく出られないだろうし、出るときは何かしら監視がつけられている。携帯も没収されているから連絡手段もない。
反抗の兆しが見えないとは言え、今のあきらは一般人の前で理由なく仲間を殺しかけた危険人物なのだ。夏油と会わせて何が起きるかもわからないし、怪我人である今、許可が下りるわけがなかった。

「…………そうか」
「歩けるようになってから、自分で面会許可取れば」

夏油が頷く。どこまでも頑固な同級生に少し馬鹿らしくなってきて、硝子は窓の外に視線を移した。