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思い出す硝子※

※夢主死んでます

 

長い髪は仕事の邪魔だ。書類を捲る手を一旦止めて、腕につけていたゴムで適当に結ぼうとしたその時に、ふと昔聞いた言葉を思い出した。
 

──硝子さ、髪伸ばしたら?絶対似合うよ
 

どんな声だったかは覚えていない、でもほったらかしの寝癖を笑いながら直してくれた優しい手と、くすぐったいような、照れ臭いような気持ちだけが今も心のどこかに残っている。
とはいえ髪を伸ばした理由があれだったかは正直微妙なところだ。ただここで過ごす毎日が忙しくて、美容院に行くのも億劫がっているうちにいつの間にか伸びただけのような気もする。

視線を上げると、暗くなった外のせいで鏡のようになった窓に、ぼんやりと映る長い髪の自分が見えた。
 

「……どうだろ。似合ってんのかな」
 

それを教えてくれるはずだった友人は、生憎もうどこにもいない。

硝子は息を吐くと一度伸びをした。髪を結び、あとは何事もなかったかのように、今夜の仕事を再開した。