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五条に知らせる(男主)

※学生時代

 

「──じゃあ、非術師を皆殺しにすればいいじゃないですか」
 

明日の任務の説明あるから戻ってこいとメールをしても返事がない同級生を捜し、七海と手分けして校内をぶらぶら歩いていたら、えらい会話を聞いてしまった。
見つかったらまずいやつでは?と思って反射的に息を潜める。入り口の方から中の様子をこっそりと伺ってみると、ベンチには思い詰めた顔の声の主──夏油傑と、知らない女性が並んで座っていた。

なんだかわからないが強そうな人だ。
妙なオーラがある。

彼女はこちらに気づいたようで、非術師の価値がどうのと夏油が深刻なトーンで続ける間に、智に向かってばちんと一つウインクをくれた。
それがここは任せろというような自信に満ちたものに見えたので、こちらもばちんとウインクを返し、親指を立てると、音を立てないようにこそこそとその場を離れた。
 

そんなことがあった日の夜だった。
 

部屋で出張のための荷造りをし、寝る前にアイスでも食うかあと思いながら通りかかった共有スペースで、久しぶりに見る先輩がソファーを占領しながらなにやら手を動かしていた。

「お、五条さん。ちーす」
「おー」
「戻ってたんすね」
「うん」

御三家たる五条家の次代当主、どころか現代最強とさえ言われる特級術師は智の方も見ないまま、いかにもどうでもよさそうに答えた。
一応智は五条にとっては後輩なのだが、七海や灰原と違って、二年になってやっと編入してきた人間だから、大して愛着もないのだろう。正直名を覚えられているかも怪しい。
だが智はそんなことで挫けるような殊勝な性格はしていないので、生返事にもショックは受けず、その手の中で小さく渦巻いている呪力の塊について尋ねた。

「それなんすか?」
「……赫。どこまで圧縮できんのか試してるとこ」
「へー!なんか危なそう」

どうやら聞けば答えてくれるらしい。元々の目的だったアイスのことも忘れ、常時術式使ってるって本当ですか!とか、反転術式って使うときどんな感じなんすか!コツってありますか!とか、ちょうどいい機会とばかりにどんどん質問を投げかけた。
何しろこの先輩はレアなのだ、聞けるときに聞いておいて損はない。
術式の方に集中しているからか、五条は適当ながらきちんと答えてくれる。それに気を良くしていた智は、ふと今日の出来事について思い出した。

「そういや俺知らなかったんですけど、夏油さんって非術師嫌いな人なんすね」
「……は?」

五条が初めて智の方を見た。
同時に完全な形をしていた球体がぐわんと僅かに歪み、嫌な圧を感じた智はちょっと体を引いた。

「ちょ、五条さん、今危なかったんじゃ……」
「大丈夫だっつの。それよりオマエ、今なんつった?」

手の中の球体をあっさり消し去ると、五条は眉を寄せて智に詰め寄った。さっきまでと様子の違う先輩に少したじろぎながら、智は今日あったことをポツポツと話した。
自販機のところに夏油と知らない女性がいたこと。
灰原も少しだけ話をしたらしいこと。
夏油の様子がおかしかったこと。
非術師を皆殺しにすればいいじゃないですか、と過激な思想をぶち上げていたこと。
すぐその場を離れたので、詳しくは聞いていないこと。
五条は難しい顔をしたまま智の話を聞き終えると、苛立たしげにそのまま立ち上がった。

「……俺なんかやっちゃいました?」
「別に」

さすがに不安になった智の質問に素っ気なく答え、五条はズンズンと寮の部屋の方に歩いていく。そのまま部屋に帰るのかと思いきや、なぜかまた智の方に戻ってきて、「おい」と言った。

「は、はい。なんすか」
「……オマエ、周りの奴がなんか悩んでそうなとき、どうする」
「えー……?」

ぱっと思いつく答えはなかったが、自分をじっと見つめる青い瞳の圧に負けて、智はうんうんと真剣に考える。
同級生二人のこと、特に悩みがあってもなかなか口に出さなさそうな七海のことを思い浮かべた。

「悩み事話すまで絶対離れないって宣言する……とか……?」

それで実際付き纏うとか。
めちゃくちゃ嫌がりそうではある。灰原と二人でしばらくまとわりつけば、音を上げて白状するかもしれない。

「……ふーん」

頷いて、今度こそ部屋の方へ消えていく五条の背中を、智はぽかんと口を開けて見送った。

 

ひとこと
燈を聞いてそうだよ全部告げるべきだったんだよ!!てなっているのですが、絶対自分からは言わなさそうなので五条に任せたいです。
男主は呑気でちょっとアホっぽいのが好きだ。