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被告人五条

※過去編軸

 

一つ上の先輩たちに体術の稽古という名の後輩いびりを受けている。

という冗談はさておき、今日はまだ三級の七海と灰原がペアで呪術実習から戻ってきていないので、三対一なのがつらい。
一応善意五割なことはわかっているが、残りの五割がおそらく暇つぶしだということを考えると素直に感謝する気も起こらなかった。

「もー無理……ギブです……」

ふらふらと歩き、道場の端っこで死んだように倒れ込んだあきらに、組手の相手をしてくれていた夏油が「体力ないねえ」と苦笑する。
見物しつつヤジを飛ばしていた五条と硝子も近づいてきて、後輩の無様な姿を覗き込んだ。さっき力負けしていたのに気づいていたのか、五条が「オマエもっと筋肉つけろ」とアドバイスをくれる。

「……呪力による身体強化は術師の基本です、そっちができてればいいんです」
「やった上で負けてんだろうが」
「うるさー……」
「あぁん?」

口の端を引き攣らせると、近くにしゃがんだ五条がおもむろにあきらの二の腕に手を伸ばした。「最低限は必要だろ。ぷよぷよじゃんか」と不躾にも二の腕を揉んでいる。
仮にも女性に対して何をしているのだろう。
他意がなさそうなのがまたむかつく。
あきらは寝転がったまま、五条の綺麗な顔に白い目を向けた。

「……一説によると……」

無邪気に脂肪で遊んでいる五条に向けて、独り言のように口を開く。

「二の腕の柔らかさは女性の胸の柔らかさと同じくらいらしいです」
「は!?」

怯んで手を離した五条に向かって、「なので今、五条先輩は私の胸を揉みました」と続けた。
硝子と夏油が「サイテー」とふざけて口を押さえる。五条が同期二人に向かって「乗んな!」と吠えた。

「というわけで硝子さん、判決お願いします」
「有罪でしょ」
「だから乗んな硝子!」

あきらは妥当な判決を下した硝子を見、その横にいる夏油にちらりと視線を移す。

「ありがとうございます。では執行人、あとはよろしくお願いします」
「私かい?」

夏油は数回瞬きすると、あきらの意図を察してふっと笑った。どうせあきら相手では物足りなかったのだろう、口では「仕方ないな」と言いながらも楽しそうに、部屋の中央に向かって歩き出す。

「傑もかよ」
「まあまあ。やろう、悟」

離れていく先輩二人の背中を見つめながら、疲労困憊の後輩が「潰し合え……」と低い声で呟いたことは、近くに座った硝子だけが知っていた。