Skip to content

嬉しい五条

あきらが単独任務から帰ってきた。
 

五条のいない間に、五条の把握していない任務をあてがわれた受け持ちの生徒は、腕やら頭やらの至る所に包帯を巻き、骨折したらしい右足を吊って満身創痍だったが、それでも医務室に入ってきた五条を見て睨みつけてくるだけの元気があった。

手をひらひら振りながら近寄ってきて、ベッド横の丸椅子に腰掛けた五条へ、あきらは非難じみた半目を向けた。

「全然二級案件じゃなかったんですけど。死にかけたんですけど」
「アハハ、お疲れー。お土産持ってきたけど食べる?」
「食べます。でもそんなんじゃごまかされませんからね」

さてどんな説明を受けて任務に向かったのかはわからないが、あきらは完全にこの任務を五条が当てたものだと誤解しているようだ。
抱いた不満をぶつけるように、渡したお土産の包装をびりびりに破く教え子を見て、五条は上機嫌に口の端を吊り上げた。ぶつぶつと呟かれる自分への不満もなんのそのである。

「あきら」
「はい?あ、これおいしい」
「強くなったね」
「……」

箱を膝の上に乗せ、もぐもぐとお菓子を頬張るあきらは五条を見て何とも言えない顔をした。
おそらく本人も自覚はあるのだろう。

実力以上の任務を当てられて、それでも生きて帰ってきた術師は、大抵ひとつ境界を越えている。かつての自分と同じだ。
満身創痍の体を包む呪力の流れも、ついこの前見たときとは別人のように違う。

自分への嫌がらせで死にかけた教え子が、それを自力で跳ね除けて、強くなって帰ってきたのだ。
上層部の連中の苦々しい表情が目に浮かぶようだった。

フフフ、と笑いだした五条に、あきらが不気味なものでも見るような目を向けた。

「お祝いでもする?あきら、今なんか欲しいものある?」
「ええ……」

お祝いよりまずはお詫びだろ、とでもいうような顔をしつつ、あきらはしばらく考えて、

「まともな先生……」

と答えた。