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五条が見てくる

※過去編軸

 

最近、五条によく睨まれている。

いつからなのかはわからない。理由も心当たりがないし、何なら五条はほとんどいつもサングラスをかけて過ごしているので目元がよく見えず、実は本当に睨まれているのかどうかもわかっていない。
ただ高専に来てからの生活で気配に鋭くなったあきらには、込められた感情の内容はさておき、強い視線を向けられている、ということだけはわかった。

何か直接文句を言ってくる、というようなことはなかったから実害はないのだが、まあ普通に理由が気になる。

本人が言わないのだから推測するしかなく、しばらく夜寝る前などの時間にうーんと考えていたあきらは、ある日天啓のように閃いた。

「──もしかして、硝子のこと好きとか?」

家入硝子。あきらの友人、同級生。
生徒数が元々少ない中で、同じ性別かつ気が合ったあきらと硝子は仲が良い。
あきらは元々女友達とは距離が近くなるタイプの女子だったし、硝子はその辺りどうとも思っていなさそうなので、二人はなかなかべったりだ。平日も休日も、教室や寮で互いに用事のないときは二人で喋ったり遊んだりしているため、あきらのそばには常に硝子がいるような状態だった。
つまりあきらを見ているのではなく、硝子の方を見ているのではないかと思ったのだ。
思えば共用スペースでくっついてゲームをしているときなどに「オマエらくっつきすぎ」だの「暑苦しいんだよ」だのいつも夏油と肩を組んで歩いている男とは思えないくらいのことをぶつぶつ言われたこともあった。

なんだか納得がいった。
そしてこうも思った。
 

女友達相手でも嫉妬するタイプか。
マジでめんどくさいやつじゃん。

 

「……それで、私と組みたいって言い出したんだね?」
「うん。この際チャンス作ってやろうと思って」

あきらが誇らしげにピースを作って夏油に向けると、彼はこれ見よがしに大きなため息を吐いた。
 

あきら達の現在地は某巨大テーマパークだ。とはいえ遊びに来たわけではない、れっきとした任務である。
人が大勢集まる場所、人がよく思い出す場所は呪力の受け皿となり、呪霊が生まれる。
テーマパークは楽しいところではあるが、それでもやはりこれだけの人が訪れ、多くの感情を受け止めている場所ではあるから、時々はこうして生徒を派遣して、見回っておく必要があるのだった。まあ大した呪霊がいないのは確定で、半ば学生の息抜きとして回される仕事なので、緊張感は全くない。

早朝、開園前のゲートに一般人と一緒に並びながら、これはいい機会だと思いついたあきらはある提案をした。

「ねえ、手分けしようよ」

高専の制服は変に目立つからということでそれぞれ私服を着てきた同級生たちに笑いかけながら、あきらは言った。

「広いしさ、四人で固まって回ってたら一日じゃ終わらないって。二人ずつ組んで回ろ?」

にこにこと言ったあきらを見て、あとの三人が顔を見合わせる。別にいいけど、と硝子が言った。

「どう組むわけ?じゃんけんとか?」
「私夏油と組みたいんだよね!だから硝子は五条と組んで」
「え?」
「は?」

寝耳に水だった夏油が声を上げ、五条がぽかんと大口を開ける。硝子がえーと嫌そうな声を出したがこれは五条のいつもの行いが悪いせいなので仕方がない、ここから頑張って巻き返してほしい。

「待てよ、なんで……」

五条が文句を言いかけたその時、ちょうど開園のアナウンスが流れた。
あきらはナイスタイミングと心の中でガッツポーズをし、

「じゃっ!行こう夏油!」

夏油の腕を掴み、強引に引っ張って、今に至る。
 

はーと夏油が眉間に皺を寄せた。近くでは子供やら大人やらが楽しそうに笑顔を浮かべているというのに、夢のテーマパークには相応しくない表情だ。
あきらがピースをするのをやめて、何?と怪訝そうな顔をした。

「悟が硝子を好きだって、なんでそんな風に思ったんだい?」
「ええ?だってずっと見てるし、硝子にくっついてたら文句言うし、ああこれ女友達が嫉妬対象のめんどくさい男がやるやつじゃんって思って」
「それは当たってるけどね」
「当たってるんだ」
「でも何故、それで硝子になるんだい?あきらの可能性だってあるだろう」
「はあ?」

あきらが片方の眉を上げて、何を当たり前のことをわざわざ聞いてくるのかとでも言いたそうな表情をした。

「だって硝子かわいいじゃん。スタイルもいいし。五条、ちんちくりんはごめんだってよく言ってるし」

ちなみにあきらは五条にちんちくりんとからかわれたことが何度かある。待ち受けにしているグラビアアイドルや、一般人の高校生とは思えないスタイルの持ち主の硝子と比べてくれるなという話だ。

「……」

とうとう無言になった夏油がズボンのポケットからスライド式の携帯電話を取り出して、慣れたように操作をすると耳に当てた。
しばらくして相手が出たようで、「ああ、悟、今どこにいる?」と話し出す。

「えっ、夏油、なんで五条にかけてんの?」
「意外と近くだね。じゃあすぐ来てくれ、交代しよう」
「はあ!?」

あきらの提案と作戦をぶち壊しにすることを口に出す夏油に、あきらが非難の声を上げた。ピッと通話を切った夏油が、あきらを一瞥する。

「……悟はあきらの言う通り、女友達でさえ嫉妬対象の面倒臭い男なんだよ。男相手ならもっとだ」
「何言って……」
「まあ悟も悪いけど」

夏油が苦笑いをした。

「私はね、馬に蹴られたくないんだ」

遠くから、傑っ!と五条が声を張り上げるのが聞こえてきた。