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再会

長身を屈め、どういうつもりで付けているのかわからない目隠しを押し上げて、不機嫌そうな見慣れた顔がぐっと近づく。あきらが思わずヒエッと引いてもお構いなしで、五条は至近距離でじっとりとした視線を向けた。何を見ているのかはわからないが、六眼だのなんだの大層な瞳を持つ五条のことだ、あきらの呪力の検分でもしているのだろう。

「本物。どう見てもあきら。何にも混じってないし何にも変わってない」

しばらく見つめ合った後、ハアとこれ見よがしな溜息を吐いて、五条が言った。くるりと振り返り、やや荒い動作で近くに置いてあるソファーに腰掛ける。背を向けた五条がどんな顔をしているのか気になって、あきらはソファーの背から出ている白い頭を見た。

「そうか。まあそうだろうな」

と冷静に呟いたこちらは家入硝子だ。知らない間に随分髪が伸びて、おまけに目元に不健康そうな隈ができている。
五条に視線を向けるあきらには構わず、家入はかつての級友の腕を取った。検査をするから、と言い含めて着替えさせた患者着を捲って腕を出す。「一応採血でもしておくか」と言うと、ええ、と不満そうな声が返った。

「何か文句でも」
「ないけどさぁ……」

子供みたいなことを言うなと思って、そういえばあきらが未だに子供であることを家入は思い出した。

——高遠あきら。十一年ぶりに当時のままで姿を現した、死んだと思っていた同級生。
外見も表情も声も記憶の中のまま、何もかもが同じだ。

「十一年だよ、十一年」

五条が少し苛立ったような呆れたような声で言った。
さっき家入が入れてやったコーヒーにどぼどぼと砂糖の塊を落としながら文句を続ける。

「どんだけ僕らが探したと思ってんだか。あの山の中を一週間だよ」
「いやぁ……」
「硝子なんか泣いてたし」
「えっ嘘」

あきらが驚いたように家入の顔を見た。「泣いてはないな」と事実を答えると、五条の後ろ頭をきっと睨みつけた。くだらないやりとりに昔を思い出しながら、家入ははあと溜息を吐く。

「ていうか私のせいじゃないし。呪霊のせいだし」
「ハア〜、間違って倒した呪霊のね〜?元々の任務のターゲットは傑が取り込んでたし」
「げっそうなの」
「僕の目でも見つけられなかったってことはそういう不干渉系の結界だったんだろうけど、それにしたってさあ、出てくるの遅すぎない?」
「…………五条の口調、なんかキモい。何僕って」
「ああ?」

反論できなかったらしいあきらが論点をずらした。これもよくあったやりとりだ。五条がいちいち乗っていくから、放っておくと喧嘩が始まるのがいつものパターンだった。
それはいいからと宥め、

「これからどうするんだ」

家入が話題を変える。

このあきらが本物で、しかもあの頃のままだということはほぼ確定だ。ならばこれから彼女はまた呪術師として生きていかなければいけない。
あきらは若干不安になったのか、唇をぎゅっと引き結んで眉間に皺を寄せた。

「まあ戸籍の方は今学長が手配してどうこうしてるらしいし、それ終わったら普通に復帰じゃない?」
「……そっか。あっ昇級!!」
「そっちも任務回してもらって再審査だね。あきらにやる気があるんなら」
「やるやる!」

やる気充分のあきらが手を挙げんばかりの勢いで答えた。小さく息を吐き、「それは結構」と五条が答える。

「——で身辺落ち着いたら一年に編入ね」
「よーし!」

続いた勢いのままに気合いを入れたあきらが、言葉の意味を考えてふと動きを止めた。
え?と不思議そうな顔で五条を見る。

「編入?なんで?」
「だってオマエ卒業してないじゃん」
「一年って何!?」
「それはちょっと事情があって」

じゃりっと音がするようなコーヒーを啜り、五条が振り向いた。腹の立つ笑顔をあきらに向け、「ちなみに僕が担任だから」と言う。あきらがハア!?と目を剥いた。

「五条が先生!?」
「そこ?」
「まあ気持ちはわかる」
「冗談もほどほどにしなよ!!」
「……」

少しカチンときたらしい五条が、わざとらしい笑顔を作って「ちゃんと五条先生って呼ぶように」と言い渡す。あきらが悪事を訴える子供のように五条を指さして、家入を見た。

「……ハァ」

今日何度目かわからない溜息が家入の口から出たのは、仕方ないことだった。