教室の外が騒がしい。
禪院真希は頬杖をつきながら、眉間に皺を寄せた。
術式と引き替えに人より優れた身体能力を持って生まれてきた真希は、五感もまた常人より鋭い。騒ぎながら早足で歩いてくる片方は軽薄さに腹が立つ担任教師、もう一人は女だ。どうやら言い合いをしている二人は教室のドアの前で一旦足を止めた。
そこまで来れば当然他の面々も気づくというもので、乙骨や狗巻、パンダも何事だろうかと顔を見合わせている。
バン、と乱暴に開いた扉から、担任の五条悟と——高専の制服を着た女子が、教室に乱入してきた。
真希とほとんど同じ形の制服だ。違いは履いているのがプリーツスカートなことくらいである。
生徒たちの顔を見て我に返ったのか、五条がぱしんと手を叩く。
「はいっ注目〜!」
「…………」
言われなくても注目している。
生徒たちの呆れた視線は気にならないらしく、五条がちらりと一緒に入ってきた女子を見やる。まだ五条を睨みつけていた女子がはっとした表情を浮かべ、やっと教室に居並ぶ一年生達を見た。
「高遠あきらです。よろしく」
「テンション低くない?何猫被ってんの?」
「うるさい!」
どうやら二人は元から知り合いらしい。あきらと名乗った女子は、五条の足を勢いよく蹴ったが、術式で防いだ五条には何のダメージもなかった。
「はいまあそういうわけで、高遠あきら。君達よりちょっと年上だけど、諸事情で一年生に編入することになりました。術師としては先輩だから悩みがあれば聞いてみて」
「へえ、何級だ?」
パンダが尋ねた。特に隠すこともない情報なので、あきらが「準一級」と答える。
「準一級って……、凄いね!」
「しゃけ」
驚いたように言った乙骨が特級術師だということは知っていたので、真希は半目になって彼を見た。よくわかっていない乙骨が首を傾げている。
その間に五条が順に真希達を紹介していく。
呪具使いの真希、呪言師の狗巻、呪われている乙骨にパンダ。
それぞれ一言言ったり言わなかったりしつつ、人数が少ないせいもあり、紹介はすぐに終わる。あきらはうんうんと頷きつつ聞いていたが、乙骨の時だけ、態度が少し違ったように真希には見えた。
「ホラあきら、他に言っとくことは?」
五条に促されたあきらがうーんと考えた。
「あー……、武器は薙刀。術式はまあそのうち……」
「うんうん。というわけで今日は親睦を深めるため、今から全員で実習です」
「えっ」
「任務自体は雑魚いから、まあ頑張っておいで」
ニッと笑った五条がみんな行くよと生徒達を急かす。こんなのでも担任だ。従わない選択肢はなく、真希は傍らに置いていたケースをつかみ立ち上がった。
「禪院さん」
「真希でいい」
わいわいと移動している間に、あきらはいつの間にか真希の隣を歩いていた。
呼ばれた名字を短く拒否すると、あきらが目を瞬かせる。察するものがあったのか何も聞かずに、「真希ちゃん」と言い直す。
「……ちゃんもいらねーよ」
「ええ、じゃあ真希?初対面なのに?」
「別にいい」
そっかあと頷いたあきらは真希の背負ったケースを指さして、「薙刀?」と尋ねた。
「そーだよ」
「一緒じゃん。今度手合わせしてね」
「いいけど」
これからよろしく、と言ったあきらに、真希もよろしくと返す。
別に今までが嫌だったわけではないが、女子の同級生ができるのも、これはこれで悪くないと思った。